子宮腺筋症は子宮内膜胚受容能のずれが生じるリスク因子(論文紹介)

子宮腺筋症は、体外受精/顕微授精における着床不全や生殖成績の低下と関連しています。子宮腺筋症における着床率の低下は、子宮蠕動運動の変化、胚・子宮内膜クロストークの変化、および脱落膜変化に異常が起こっています。
LIF、HOX 10、インテグリンのような着床に重要な因子の発現不全や、マクロファージおよびNK細胞など炎症細胞の増加などが子宮腺筋症で変化することがわかっていますし、臨床に身近なところで考えると慢性子宮内膜炎の増加も報告されています(慢性子宮内膜炎と子宮腺筋症(論文紹介))。子宮腺筋症は子宮内膜胚受容能にどのように影響を与えるか調べた報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

子宮腺筋症は子宮内膜胚受容能のずれが生じるリスク因子となります。子宮内膜胚受容能がずれた17症例のうち、8症例がpre-receptive、9症例がpost receptiveでした。

≪論文紹介≫

Nalini Mahajan, et al. J Hum Reprod Sci. 2018 Oct-Dec;11(4):353-358. doi: 10.4103/jhrs.JHRS_52_18.

2013~2016年に過去に1回以上体外受精に失敗し、ERA検査を受けた374名を対象に行ったレトロスペクティブケースコントロール研究です。子宮腺筋症女性36名、子宮腺筋症なし女性338名の子宮内膜胚受容能の違いを比較検討しました。
結果:
子宮腺筋症の有無により子宮内膜胚受容能のズレが生じる割合は子宮腺筋症群で2倍高いことがわかりました。子宮内膜胚受容能がずれた17症例のうち、8症例がpre-receptive、9症例がpost receptiveでした。これらの症例は年齢層がともに34歳前後、BMIにも差がなく、子宮内膜菲薄化症例や卵管水腫症例、粘膜下筋腫や子宮内膜ポリープ症例はのぞいて検討しています。

  Receptive Non Receptive
子宮腺筋症女性36名 19(52.8%) 17(47.2%)
子宮腺筋症なし女性338名 265(78.4%) 73(21.6%)

子宮腺筋症女性は反復着床不全であるリスクも高く、子宮腺筋症女性に対してERA調整下個別化胚移植を行うと妊娠率が改善することがわかりました。

≪私見≫

子宮腺筋症は難治性不妊の代表的な疾患です。反復着床不全患者には子宮腺筋症の手術を治療手段として提案しますが、手術を回避する手段として先に子宮内膜胚受容能検査を実施し、個別化胚移植を行うことを代替治療としてお話しすることを検討してもいいかもしれません。この症例のnon receptive群ではpost receptiveの割合が高いですので子宮内炎症を示唆しているのかもしれません。

文責:川井清考(院長)

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