難治性排卵障害PCOSにはレトロゾール長期間内服が奏功(論文紹介)

クロミッド®・レトロゾール・メトホルミン、rFSH注射での排卵コントロールが上手くおきない難治性排卵障害のPCOS女性が一定数いらっしゃいます。腹腔鏡下卵巣多孔術が選択肢になってきますが、手術治療を躊躇する方が少なくなく、内服薬や注射での排卵獲得の工夫が臨床の現場ではなされています。今回、難治性排卵障害PCOS患者に対してレトロゾール長期間投与が奏功した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

レトロゾール難治性排卵障害PCOS女性にはレトロゾールの延長にて排卵が高率に獲得できる可能性が示唆されました。しかし、国内では、保険診療下での使用期間がみとめられていません。

≪論文紹介≫

Xiuxian Zhu, et al. Fertil Steril. 2023 Jan;119(1):107-113. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.09.018.

PCOS女性で、過去にレトロゾール5mg /日 5日間投与して排卵しなかった女性を対象に、レトロゾールの投与期間を延長することにより排卵を誘発できるか評価することを目的としたレトロスペクティブ・コホート研究です。
レトロゾール抵抗性のPCOS女性69名を対象に、レトロゾール5mg/日 7日間投与し、再度排卵が起こらなかった場合は次の周期にレトロゾール5mg/  日10日間投与し、排卵率、臨床妊娠率、出産率、自然排卵率、OHSS率を比較検討しました。レトロゾール内服後14日以内に卵胞発育反応がない場合には、ジドロゲステロンにて消退出血を誘導しました。
結果:
レトロゾール抵抗性のPCOS女性69名中、48名が7日間、16名が10日間のレトロゾール内服期間の延長で排卵し、レトロゾール延長法での累積排卵率は92.75%(64/69人)、累積臨床妊娠率は31.88%(22/69人)、累積生児獲得率は24.63%(17/69人)でした。全例が外因性トリガー剤なしで排卵し、OHSS発症症例はありませんでした。排卵前に最大発育卵胞径は、7日間投与で31.3mm、10日間投与では29.3mmでした。子宮内膜の厚さが7mm未満であったのは、各群で2名のみでした。

  7日投与法
排卵症例48例
10日投与法
排卵症例16例
>18mmの発育卵胞数 1.02±0.56個 1.31±0.48個
排卵前最大卵胞径 21.5±3.63mm 20.41±4.75mm
排卵までの期間 16.19±3.04日 17.44±3.01日
排卵前子宮内膜厚 10.58±2.63mm 10.8±2.74mm

表:排卵症例の特徴

≪私見≫

レトロゾールの半減期は45時間を短く、長期投与が難治性排卵障害に奏功するのは理にかなっている気がします。過去にレトロゾール5mg/日 5日間投与とレトロゾール25mg/日 1日投与で人工授精成績が変わらないとした論文がありますが、こちらは排卵障害の改善を目的とした報告ではなく人工授精の成績比較ですので混在なさらないでくださいね(Kaitlin McGrail, et al. F S Rep. 2020 Jul 20;1(3):202-205. doi: 10.1016/j.xfre.2020.07.003.)。

文責:川井清考(院長)

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