精液所見正常症例での精索静脈瘤手術_その②(論文紹介)

Q.精液所見正常の場合でも精索静脈瘤があったら手術をした方が良いのでしょうか?
A.WHOの基準をぎりぎり満たしているような精液所見の下限付近の症例の場合、精索静脈瘤手術のメリットがありそうです。

≪今回ご紹介する論文≫

Is varicocelectomy beneficial in men previously deemed subfertile but with normal semen parameters based on the new guidelines? A retrospective study.
McGarry P, Alrabeeah K, Jarvi K, Zini A. Urology. 2015 Feb;85(2):357-62. doi: 10.1016/j.urology.2014.10.031. Epub 2014 Oct 30. PMID: 25623687.

従来は男性生殖機能低下と判断されていたが、新たな精液所見の基準値では正常となった男性に精索静脈瘤手術は有益か?についての後ろ向きの研究。

前回にひきつづき、精液所見が正常な精索静脈瘤に対する手術の効果を検討した研究です。精液所見の基準値は、世界保健機関(WHO)が定期的に改定しています(表)。1年以内に自然妊娠した症例を蓄積して、その分布から基準値を作っています。改定ごとに微妙に基準値に差があるので、以前の基準値では異常値とされていても、更新された基準値では問題なしとなる症例が少なからず発生することになります。このような症例で精索静脈瘤を持つ場合、手術をしたらどのような結果であったかを振り返って検討したのがこの研究になります。
ちなみに2021年に最新版に改訂されています(表)が、この研究はその一つ前の基準値までの時代の症例についての検討になります。

≪研究の要旨≫

この研究の目的は以下のようになります。2010年世界保健機関(WHO)の精液パラメータの基準値を用いて精索静脈瘤手術の適応を判断することにより、この治療の効果が得られる可能性のある不妊男性を除外してしまう可能性があるかどうかを検討することです。2010年に更新されたWHOの精液検査所見の基準値を適用することにより、従来精液検査所見に異常があるとされていた男性の中には、正常な所見とみなされるようになる症例も存在します。
研究の方法は次のようになります。精索静脈瘤を有する不妊男性を対象として、後ろ向きにデータを解析して、WHOの1992年の精液検査の基準値または1999年の基準値では精液所見が異常と判断されるが、WHOの2010年の基準値では精液所見正常となる男性をデータベースから抽出しました。精索静脈瘤手術を受けたカップルと経過観察を選択したカップルの転帰(精液所見の変化と自然妊娠)を比較しました。
つぎのような結果になりました。精索静脈瘤を有し、WHOの1992年または1999年の基準値で精液所見に異常となる不妊男性445人を同定しました。445人中56人(13%)はWHOの2010年基準では精液所見は正常でした。これらの正常となった男性のうち56人中32人(57%)が精索静脈瘤手術を選択し、56人中24人(43%)が経過観察を選択していました。これらの精液所見が正常の男性(WHO 2010による)において、精索静脈瘤手術後は、精子濃度が有意に上昇していました(50±35×10(6)/mL[術後]vs 32±23×10(6)/mL[術前];P=0.003)。統計的に有意ではありませんでしたが、臨床妊娠率は観察群と比較して精索静脈瘤手術群で高い傾向をしめしました(それぞれ52% vs. 38%;P=0.37)。
結論は次のようになります。臨床的な精索静脈瘤を有し、WHO1992年または1999年基準では精液所見異常となってしまいますが、WHO2010年基準では正常となる男性においては、精索静脈瘤手術が有益である可能性がある。2010年のWHOの精液検査の基準値をそのまま適用すると、治療可能な男性不妊症の原因を見逃す可能性があります。

表. WHOマニュアルに掲載されている精液検査所見のカットオフ(基準)値(発表年別)

  WHOの公表年
精液検査のパラメータ 1980 1987 1992 1999 2010* 2021*
精液量 (mL) ND ≧2 ≧2 ≧2 1.5 1.4
精子濃度 (10^6/mL) 20-200 ≧20 ≧20 ≧20 15 16
総精子数 (10^6) ND ≧40 ≧40 ≧40 39 39
精子運動率 (%) ≧60 ≧50 ≧50 ≧50 40 42
精子前進運動率 (%) ≧2 ≧25 25
(grade a)
25
(grade a)
32
(grade a+b)
30
精子生存率 (%) ND ≧50 ≧75 ≧75 58 54
精子正常形態率 (%) 80.5 ≧50 ≧30 14 4 4
精液中の白血球数 (10^6/mL) <4.7 <1 <1 <1 <1 <1

ND, not defined; WHO, World Health Organization.
* 1年以内に妊娠を得た症例の下位5%をカットオフ(基準)値としています。
2021年の基準値はこの研究には含まれていません。

≪筆者の考察≫

精索静脈瘤に対する手術適応は前回ご紹介しました通り、男性不妊症で精液所見が異常な場合とすることが推奨されています。この研究の表のように、基準値はWHOが定期的に更新していてその度に相違が生じています。基準値付近の所見の場合は、正常になったり異常になったりしています。2021年の改訂でもそれ以前とあまり変化していなませんが少し違いがあります。今回の研究では、基準値をぎりぎり満たすような精液所見の場合、つまり基準値の下限近くの精液所見をしめす精索静脈瘤症例では、手術するメリットが十分あるということが示されていると思われます。精液所見は常に変動します。精液所見が正常だったり異常だったりと変動するような症例をみることは少なくないのですが、そのような精索静脈瘤の方には手術を提示していこうと思っています。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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泌尿器科専門医・指導医、生殖医療専門医の小宮顕部長が担当します。

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