調節卵巣刺激はゴナドトロピン(FSH/HMG)投与量で結果が変わる?(論文紹介:コクランレビュー2018)

外来で診療をしていると、「体外受精の卵巣刺激のHMG量を相談したい」と患者様から言われることがあります。色々なSNSの発信の影響なんでしょうね。
患者様が医療知識をもつことは大賛成なのですが、その知識がクリニックの批判に繋がってしまうことや、現在治療している施設への医療不信に繋がることは避けなくてはいけない事態です。
医療機関は患者様にとって有益であるということを前提に治療を選択していくわけですが、私は、①妊娠率が高いこと、②合併症が少ないこと、③通院回数が少ないこと、 が大事なポイントだと思っています。
当院では1日のHMG単位量は、患者様に応じて合併症の発生率を意識して150-300単位に割り振っていますが、それでも昨年は0.5%の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の入院が発生いたしました。全例PCOS患者様でOHSSハイリスクのため低刺激で開始したのですが入院となっています。だからこそ、症例、症例で卵巣刺激は個別化決定することが重要だと思っています。その上でベースとしている概念が以下の論文です。
この論文で解析された論文は「回収卵子数」「出生率」「OHSS発生率」に特化している点、新鮮胚移植が大多数を占めている点で現在の体外受精の本流とは異なっています。今後は「全胚凍結での正常核型胚の割合を示したレビュー」に10年以内に置き換わるのではないかと考えていますが、大前提の基礎となるレビューですのでご紹介させていただきます。

背景:

体外受精にともなう調節卵巣刺激では複数卵胞を発育させることを目的にFSHを毎日投与します。一般的に、FSHの用量は採取された卵子の数と関連しています。
私達は年齢、卵胞期FSH値、胞状卵胞数(AFC)、AMHなどを含む卵巣発育を予測する因子からFSHの投与量を個別に調整することをしばしば行います。これらのマーカーに基づいて FSH 投与量を個別に調整することで臨床転帰が改善されるかどうかは色々な意見があります。

Sarah F Lensen ら. Cochrane Database Syst Rev. 2018. DOI: 10.1002/14651858

≪論文紹介≫

このコクランレビューでは体外受精/顕微授精を受ける女性における、卵巣予備能のマーカーを用いた個別化ゴナドトロピン(FSH/HMG)投与量選択の効果について、2017年7月27日までの関連文献(20試験:N = 6088))を調査し検討しました。
卵巣予備能検査(AMH、AFC、および/または卵胞期FSH値に基づいて低反応者、正常反応者、または高反応者が予測される)を実施した女性に対して、
①異なるFSH用量を投与し比較した試験、②個別化された投与方法(少なくとも1つの卵巣予備能検査指標に基づく)と標準的治療を比較した試験を対象としました。
主要評価項目は、出生率/妊娠継続率と重度のOHSS発生率としました。
副次的評価項目は、臨床妊娠率、中等度または重度のOHSS、多胎妊娠率、回収卵子数、体外受精周期の卵巣刺激後中止率、FSH総投与量と投与期間としました。

A.予測される反応に応じた女性の直接投与量の比較

すべてのエビデンスは低質または非常に低質でした。
①卵巣反応が低いと予想される患者:
FSH投与量の増加が出生率/妊娠継続率、OHSS、臨床妊娠率に影響を与えるか否かは不明でした。論文によるばらつきが大きかったためと考えています。
②卵巣反応が正常と予想される患者:
9件の試験、3件の比較試験では、FSH高用量投与は、出生率/妊娠継続率もしくは臨床妊娠率に影響を与える場合もあれば、与えない場合もありました。結果は不明確であり、あったとしても、わずかな有益性または有害性が起こる程度と考えられています。OHSSについては症例が少なすぎて推論ができませんでした。
③卵巣反応が高反応と予想される患者:
FSH低用量投与は、出生率/妊娠継続率、臨床妊娠率に影響を与えるかどうかは不明でしたが、中等度または重度のOHSSの可能性が低下しました。

B.卵巣予備能検査に基づいたアルゴリズムによる比較

4件の試験では、卵巣予備能検査アルゴリズムと非卵巣予備能検査対照群が比較されました。出生率/妊娠継続率および臨床妊娠率はほとんど差がありませんでした。
しかし、卵巣予備能検査アルゴリズムは中等度または重度のOHSSの可能性を低下させました。標準用量投与で出生する確率が26%であれば、卵巣予備能検査アルゴリズムを用いた投与では24%~30%の確率になりました。標準用量で中等度または重度のOHSSを発症する確率が2.5%であれば、卵巣予備能検査ベースの投与では0.8%から2.5%となっていました。

レビューでの結論:

特定の卵巣予備能検査において FSH 投与量を調整することが、出生率や妊娠継続率に影響を与えることは明らかになっていませんが、今回は論文のサンプルサイズは質のばらつきのため結論がでませんでした。
卵巣反応が高反応と予想される患者では、FSHの低用量投与は中等度および重度のOHSSの全体的な発生率を減少させます。卵巣予備能検査アルゴリズムによるFSH個別化投与量調整は、すべての女性に150IUを投与する方針と同等の出生率/継続妊娠率を維持しOHSSの発生率を減少させました。

≪私見≫

卵巣刺激高反応患者様にはOHSSリスクを下げる刺激を行うことが大事ですが、FSH投与量を減らしすぎると卵胞が育たずキャンセル率も増えるため注意が必要です。
卵巣刺激低反応群は、もっと的確な論文が多数ございますので別途ご報告させていただきます。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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