タイムラプス培養における胚盤胞到達率の有効性とアミノ酸解析(論文紹介)

タイムラプス培養における標準的なベンチトップ培養に比べて、胚への負担がすくなく、胚盤胞到達率が高い可能性が以前より報告されています。今回の研究はインキュベーターの種類は、胚盤胞到達率に影響を与えるか、胚のアミノ酸利用率に影響を与えるか?を調査した前向き研究です。

≪ポイント≫

タイムラプス培養を行うと標準的なベンチトップ培養と比較して、受精後5日目の胚盤胞到達率が高く、受精後3日目から5日目までのアミノ酸利用率に変化がみられました。

≪論文紹介≫

Alexandra J Kermack,et al.Hum Reprod. 2022 Oct 26;deac233.  doi: 10.1093/humrep/deac233

イギリス大学病院において、585個のsibling胚を23ヶ月間にわたり、タイムラプス培養(289個)または標準的なベンチトップ培養(296個)のいずれかに無作為に割り付けた前向き研究です。
参加者は42歳以下で、AFCが12以上、2PNが6個以上でした。胚は25μlの培地で個別に培養されました。ランダム化された胚は、5日目に移植または凍結保存のためにGardner分類にて評価しました。高圧液体クロマトグラフィーによるアミノ酸分析のために、5日目に使用済み培地を採取した。臨床的妊娠は、7週目の超音波検査で胎児心拍が確認された場合と定義しました。
結果:
5日目の胚盤胞到達率は、標準的なベンチトップ培養(45%)と比較してタイムラプス培養(55%)の胚が高くなりました(P = 0.013)。また、移植有効胚盤胞数も、標準的なベンチトップ培養(23%)と比較してタイムラプス培養(31%)で増加しました(P = 0.032)。タイムラプス培養で 3 日目から 5 日目まで培養した胚盤胞の 12 種類のアミノ酸の利用率には,標準的なベンチトップ培養と比較して差を認めました。タイムラプス培養胚は標準的なベンチトップ培養胚と比較して、総アミノ酸利用量の増加(P < 0.001)およびアミノ酸生成量の減少(P < 0.001)を示しました。ICSI胚は,使用したインキュベーターに関係なく,IVF胚に比べて,培地から有意に多くのアミノ酸を消耗しました。胚盤胞移植胚のスコアリングや臨床妊娠率に差は認めませんでした。
今回はG1+/G2+を用いたsequential mediumでの個別培養の検討です。 タイムラプス機材はEmbryoScopeを用いています。凍結・移植基準は Gardner分類 3BB以上としています。アミノ酸は生成量、消耗量、turn over量(生成量、消耗量の合計)を算出しています。

≪私見≫

今回の論文は何よりアミノ酸分析の結果が興味深いです。
●タイムラプス培養胚は標準的なベンチトップ培養胚に比べてアミノ酸消耗が多い
タイムラプス培養胚は標準的なベンチトップ培養胚と比較して、アルギニン、スレオニン、チロシン、メチオニン、バリン、トリプトファン、フェニルアラニン、イソロイシン、ロイシンおよびリジンを著しく消耗していました。これらのアミノ酸は、8細胞期以降のより生存力の高い胚の発生をサポートすることが示されているため、タイムラプス培養胚がより発生的能力が高い胚であったことを二次的に捉えた可能性が示唆されます。さらに、必須アミノ酸は、8細胞期以降の分割率を高め、マウスでは胚盤胞の内部細胞塊の発達を刺激することがわかっています。
●ICSI胚はIVF胚に比べてアミノ酸消耗が多い
タイムラプス培養および標準的なベンチトップ培養のいずれにおいても、IVF胚に比べてICSI胚では総アミノ酸の消耗が多くなっています。可能性として、ICSIでダメージの多い精子注入となること、ICSI手順(卵丘細胞の除去、卵子の注入など)に関連した障害などがあげられます。 ICSI操作を掘り下げて考えてみると、ICSIでは早期から卵丘細胞と卵子の協力関係は失われます。卵子はパラクラインシグナルを用いて卵丘細胞によるアミノ酸の取り込みを促進し、アミノ酸はギャップジャンクションを介して卵子に輸送される部分に障害が発生している可能性が考えられます。そのほかにも、注入によるダメージ、および卵子の細胞質が培養液に直接さらされる割合の増加などが原因として挙げられます。

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文責:川井清考(院長)

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