妊娠しづらそうなカップルは人工授精が自己妊活より効率がよい?(論文紹介)

12ヶ月で妊娠継続が30-40%はできるだろうと判断されたカップルでの卵巣刺激を用いた人工授精は、自己妊活に比べて成績が向上しないことが過去の報告からわかっています。33歳前後の253組カップルのうち、127組が「卵巣刺激を用いた人工授精」に、126組が「自己妊活」に割り付けられ、「卵巣刺激を用いた人工授精」群では、42名(33%)が妊娠し、29名(23%)が妊娠継続中であり、「自己妊活」群では、40人(32%)が妊娠し、34人(27%)が妊娠を継続しており、妊娠しやすそうなカップル、はまずは「自己妊活」が好ましいとされる現在の流れの方向性を作られました(Pieternel Steures, et al.  Lancet. 2006 Jul 15;368(9531):216-21.)。
今回、同じオランダのコンソーシアムが妊娠しにくそうなカップルでは「卵巣刺激を用いた人工授精」と「自己妊活」どちらがよいのかを調査した報告となります。

≪ポイント≫

妊娠しやすそうなカップルは「自己妊活」から始めるべきだが、妊娠しづらそうなカップルでは「卵巣刺激を用いた人工授精」が「自己妊活」より6ヶ月後の妊娠継続率は高そうです。原因不明不妊で予後不良のカップルは「タイミング療法」より「卵巣刺激を用いた人工授精」が推奨される根拠となります。

≪論文紹介≫

J A Wessel, et al. Hum Reprod. 2022 Nov 4;deac236.  doi: 10.1093/humrep/deac236. 

オランダにおいて非劣性多施設RCTを実施しました。3年以内に1,091組のカップルを含めることを計画し、1:1の割り付けで6ヶ月の「妊活」または6ヶ月の「卵巣刺激を用いた人工授精」(クエン酸クロミフェンまたはゴナドトロピンのど)としました。対象は原因不明不妊で、自然妊娠の予後が悪い(12ヶ月で30%未満)と判断されるカップルを対象としました。主要評価項目は、生児獲得率としました。
非劣性は、卵巣刺激を用いた人工授精後の予想生児獲得率30%と比較して、片側90%のリスク差のRD CIがマイナス7%未満である場合としました。ITT分析ならびにPPT分析にもとづいてRD、90%CIによるRR、HRと算出しました。
結果:
2016年10月から2020年9月の間に、92組を「妊活」に、86組を「卵巣刺激を用いた人工授精」に割り付けました。組み入れに時間がかかったため、試験は途中で中断となりました。女性の平均年齢は34歳、不妊期間の中央値は21カ月でした。
「妊活」群12/92(13%)に対して「卵巣刺激を用いた人工授精」群28/86(33%)でした(RR: 0.40, 90%CI 0.24 -0.67、RD: -20%, 90%CI: -30% --9% HR: 0.36, 95%CI 0.18 -0.70)。PPT解析では、「妊活」群70人中8人(11%)に対して「卵巣刺激を用いた人工授精」群73人中26人(36%)でした(RR: 0.32, 90%CI 0.18 -0.59; RD: -24%, 90% CI -36% --13%)

≪私見≫

今回の研究は妊娠しなさそうなカップルの場合は「卵巣刺激を用いた人工授精」から始めるのが好ましいことを裏付ける研究結果となっています。この研究の信頼性は以前、妊娠しやすそうなカップルでは「妊活」からスタートが好ましいとしたグループの追加試験だったところにも信憑性があります。残念なところは研究プロトコールと資金の問題で予定数の1,091組から178組で打ち切りとなったこと、「妊活」群の途中脱落が多かったことです。

今回の妊娠不良群の定義ですが、12ヶ月の不妊期間があり、排卵障害がなく、卵管疎通性の片方が確認されていて、総運動精子数300万以上としています。
12ヶ月以内の妊娠予測ですが、Hunaultの予測モデルを用いて算出しています。(C C Hunault, et al.  Hum Reprod. 2004 Sep;19(9):2019-26.)
このモデルは、女性年齢、不妊期間、妊娠歴があるか、専門的知識がある施設からの紹介があるか、性交後検査、精液所見の状況から妊娠予測を推測しています。
そのうえで研究参加カップルは下記のように定めています。

  • 女性年齢が18歳-38歳で、Hunaultスコアが30%未満
  • 女性年齢が38歳-43歳
  • 女性年齢が18歳-38歳で、Hunaultスコアが30%以上だったが、少なくとも6ヶ月間妊娠できず治療を再検討したカップル

文責:川井清考(院長)

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