≪先進医療≫PICSIの亀田総合病院・亀田IVFクリニック幕張実績(2022年3月現在)

体外受精の保険適用に際して、複数の項目が先進医療Aで提出されています。先進医療AのPICSIの当事業部での治療実績を踏まえてご説明させていただきます。

成熟精子は卵丘細胞の主成分であるヒアルロン酸に付着するレセプターを持っています。未成熟精子や異常精子はヒアルロン酸に付着するレセプターが持っていない、もしくは少ないと考えられています。 通常の受精や体外受精の媒精では卵子卵丘細胞複合体のヒアルロン酸に付着、貫通して受精が起こるため、受精に至った受精卵ではDNAの損傷が少ないと考えられています。通常のICSIでは運動性や形態学的に精子を選別しますが、視覚的な選別のみでは精子のDNA損傷についての情報がえられません。PICSIで用いるSpermSlowはDNA損傷が少ない成熟精子のみが持つヒアルロン酸に付着する能力を利用し、ヒアルロン酸に付着した精子を選択し顕微授精を実施することで、異数性胚の発生率を下げ、流産率を低下させることが報告されております。

海外ではSpermSlowを接着させたシートが販売されていて、ここに精子を事前に塗布しヒアルロナン結合スコアをチェックしPICSIの適用を決めています。
国内ではSpermSlowを接着させたシートが販売されていないため、ヒアルロナン結合スコアの実施は困難のためクリニックベースで症例を選んで行っているのが実情です。

海外の文献などを参考にし、当院ではヒアルロナン結合スコアの代替検査として精子DNA断片化検査を実施しPICSIの参考にする予定です。
参考程度ですが、亀田総合病院では本年度に入るまで精子DNA断片化検査を行っていなかったため、女性年齢39歳以下のPICSIの使用の有無で胚発生が向上し流産率が低下する傾向がありました。しかし、精子DNA断片化検査と総運動精子数でPICSIの適応を判断している幕張では成績に差がありません。先進医療は保険適用にプラスされる治療法のため、患者様に応じて提案させていただく予定です。

①精子DNA断片化検査を行わない場合の成績

ICSI卵子数 平均年齢 正常受精率 良好胚率 胚盤胞到達率 良好胚盤胞率
通常ICSI 1726 34.6±3.7 82.2% 50.7% 60.1% 24.7%
PICSI 2053 34.0±3.7 84.6% 62.5% 67.9% 38.4%

 

移植症例数 平均年齢 hCG陽性率 臨床妊娠率 妊娠継続率
通常ICSI 396 35.3±3.2 51.5% 40.2% 32.8%
PICSI 240 34.7±3.4 58.8% 50.8% 38.8%

②精子DNA断片化検査などでPICSI適応を判断し行った場合の成績

ICSI卵子数 平均年齢 正常受精率 良好胚率 胚盤胞到達率 良好胚盤胞率
C-ICSI 4510 34.6±3.7 84.4% 61.1% 65.3% 36.7%
P-ICSI 2053 34.0±3.7 84.6% 62.5% 67.9% 38.4%

~PICSIに関連するブログ~

PICSIは流産率を低下させる(論文紹介:その1)
PICSIは流産率を低下させる(論文紹介:その2)
PICSI/通常ICSIのsibling oocytesの培養成績(論文紹介) 
SpermSlow™を用いた成熟精子の選別
「SpermSlow™による精子選択」と「IVFラボが目指すべき培養成績の指標とその改善方法」

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

亀田IVFクリニック幕張