SpermSlow™を用いた成熟精子の選別
今回は顕微授精を行う際の精子選びについてお話します。
以前のブログ記事で顕微授精の際、卵子の中に入れる精子の選び方について2回お話をさせて頂きました。
①精子選別(2019年9月19日)https://medical.kameda.com/ivf/blog/post_20.html
②IMSI(2020年2月15日)https://medical.kameda.com/ivf/blog/post_57.html
①「精子選別」の記事では、どのような形の精子をどれ位の時間を掛けて選んでいるのか?
②「IMSI」の記事では、精子を選ぶ顕微鏡の倍率が治療成績に影響を及ぼすことを報告しました。いずれの記事も精子を「見た目」で選ぶ方法を紹介したものですが、今回は精子のある性質を利用して「生理学的」に選ぶ方法を紹介します。
精液中の精子には男性DNAの損傷が少ない「成熟精子」、男性DNAの損傷が多い「未熟精子」が混在しています。当然のことながら、顕微授精で「成熟精子」を卵子の中に入れると成績が改善することが多く報告されています。したがって、顕微授精をする際、「成熟精子」を選ぶことが大切になりますが、残念ながら「成熟精子」と「未熟精子」を見た目で区別することは出来ません。そこで精子のある性質を利用します。「成熟精子」にはヒアルロン酸に吸着する性質がありますが、「未熟精子」にはありません。「成熟精子」の頭部にはヒアルロン酸のレセプター(受容体)がありますが、「未熟精子」の頭部にはレセプターが無いと言ったところでしょうか。
したがって、ヒアルロン酸を高濃度に含んだ培養液の中で精子を泳がせると、ヒアルロン酸がレセプターに吸着することで精子頭部が重くなり、その結果、精子の動きが遅くなります。ちなみにヒアルロン酸はヒト生体内に広く分布し、皮膚、関節、眼球の硝子体に多く存在しています。
このヒアルロン酸を高濃度に含んだ培養液の商品名はSpermSlow™。その名の通り、精子(Sperm)の動きを遅く(Slow)することで成熟精子を選べるようにしてくれるものです。
今後、当院では従来通り行ってきた、見た目の良い精子を高倍率で選ぶ方法に、このSpermSlow™により動きが遅くなった精子を選ぶ方法を加えることで、より良い精子を選別していきたいと思います。
文責:平岡(培養室長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。