黄体中期のエストラジオールレベルは高すぎず低すぎず(Fertil Steril. 2024)

ホルモン補充周期において、よくプロゲステロン濃度と生殖成績の関連は話題にあがりますが、エストラジオール濃度と生殖成績の関連は、スルーされがちなトピックです。
過去の報告では以下のようになっています。
●プロゲステロン投与前のエストラジオール濃度と関連なし
 J. Remohí, et al. Hum Reprod, 1997
 P. Devroey, et al. Hum Reprod Update, 1998
 Z. Niu, et al. J Exp Clin Assist Reprod, 2008
 L. Deng, et al. Nan Fang Yi Ke Da Xue Xue Bao, 2018
 Y.F. Liu, et al. Minerva Endocrinol, 2018
 A.Z. Özdemir, et al. Arch Med Sci, 2022
●プロゲステロン投与前のエストラジオール濃度と関連あり
 N. Vyas, et al. Fertil Steril, 2023
 血中エストラジオール値は胚移植成績に影響?(Fertil Steril. 2023)
●プロゲステロン投与後のエストラジオール濃度と関連なし
 J.L. Yovich, et al. Reprod Biomed Online, 2015
 E. Labarta, et al. Front Endocrinol (Lausanne), 2021
「プロゲステロン投与前のエストラジオール濃度と関連あり」としたNina Vyasらの報告が2023年の報告で、エストラジオール濃度と生殖成績の関連は再注目され始めました。今回は、「プロゲステロン投与後のエストラジオール濃度と関連あり」という新しい論調の報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

黄体期中期の血清エストラジオール値は、ホルモン補充療法凍結胚移植周期での生児出生率と関連している可能性があり、エストラジオール値は高すぎず低すぎず、がよさそうです。

≪論文紹介≫

Birgit Alsbjerg, et al. Fertil Steril. 2024 Jun;121(6):1000-1009. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.04.006.

黄体中期の血清エストラジオール(E2)値が、黄体中期の血清プロゲステロン(P4)値が最適な患者におけるホルモン補充療法凍結胚移植周期での生児出生率と関連しているかどうかを調査した観察的プロスペクティブコホート研究です。
2020年1月から2022年11月にホルモン補充療法にて単一胚盤胞凍結融解移植周期を実施した女性412名を対象としました。
ホルモン補充は、夕方に経口E2剤(6mg/24時間)を投与し、P腟剤(400mg/12時間)を投与しました。血清E2およびP4レベルは、決められた時間に実施しました。胚移植日の血清P4値(11 ng/mL [35 nmol/L]未満)の女性には、直腸内P剤(400mg/12時間)を追加投与しましたが、E2剤の追加投与は行いませんでした。
主要評価項目は、胚盤胞移植日のE2レベルに関連する生児出生率としました。
結果:
妊娠継続率と相関する最適な血清E2レベルは、292 pg/mL以上、409 pg/mL未満(1,070 pmol/L以上、1,500 pmol/L未満)でした。E2レベルがこの範囲内にある場合、生児出生率は59%(60/102)であり、E2レベルが 292 pg/mL(1,070 pmol/L)未満のときは28%(14/50)でした。ロジスティック回帰分析では、移植当日における血清中P4値、BMI、採卵時年齢、胚盤胞凍結日、 胚盤胞グレードで調整したところ、E2値が292pg/mL未満の出生児のリスク差は-0.21(-0.32;-0.10)であり、E2値が409pg/mL以上の場合のリスク差は0.31(-0.45、-0.18)でした。

≪私見≫

重要なポイントとして記載されていますが、今回のプロトコールでは経口E4剤(6mg/日)の標準投与にも関わらず、25%の女性のみが最適な黄体中期E2値を示し、63%の女性はE2レベルが低すぎ、12%の女性はE2レベルが高すぎました。もしかすると吐き気予防のために夕方一回投与にしていますが、血中濃度を安定させるために複数回投与にすべきなのかもしれません。また、E2が高い患者は卵胞発育が起こっている可能性もあるので注意が必要です。

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文責:川井清考(院長)

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