血中エストラジオール値は胚移植成績に影響?(Fertil Steril. 2023)
ホルモン補充周期凍結融解胚移植の際において、適切な血中エストラジオール値にコントロールをすることに関しては意見がわかれるところです。今までは子宮内膜厚や投与期間はプロゲステロン投与前の基準としている報告が多いですが、最近の報告では、血中エストラジオール値が高すぎない方が良いという報告が続いています。
Fritz R., et al. J Assist Reprod Genet. 2017; 34: 1633-1638
Li Q., et al. Sci Rep. 2022; 12: 5592
今回紹介する報告は、単一正常核型胚盤胞のホルモン補充周期凍結融解胚移植の血中エストラジオール値は高すぎず、低すぎず、がよいよとしている内容です。
≪ポイント≫
ホルモン補充周期凍結融解胚移植の際には、適切な血中エストラジオール値にコントロールすることは胚移植成績に寄与することがわかりました。
≪論文紹介≫
Nina Vyas., et al. Fertil Steril. 2023 Dec;120(6):1220-1226. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.08.953.
2016年1月から2019年12月に単一学術施設で行われた単一正常核型胚盤胞のホルモン補充周期凍結融解胚移植の成績を比較検討したレトロスペクティブコホート研究です。エストラジオールパッチ投与中の血清E2ピーク値に基づいて3群に分けられました。A群(E2<300pg/mL)、B群(300-500pg/mL)、C群(>500pg/mL)。B群(300-500pg/mL)をリファレンスとして成績を比較検討しました。主要評価項目は生児獲得率、副次的評価項目は着床率、生化学妊娠、異所性妊娠、流産率としました。
結果:
計750のホルモン補充周期凍結融解胚移植を対象としました。ポアソン回帰分析により、ピークE2が高いことが生児獲得率にマイナスの影響を与えることが示された。C群(>500pg/mL)とB群(300-500pg/mL)の間(50.2% vs. 63.4%、RR 0.79[0.68-0.91])およびA群(E2<300pg/mL)とB群(300-500pg/mL)の間(42.5% vs. 63.4%、RR 0.67[0.46-0.98])で生児獲得率の低下が認められました。
副次評価項目では、A群(E2<300pg/mL)およびC群(>500pg/mL)とB群(300-500pg/mL)を比較した場合の着床率の低さ、C群(>500pg/mL)とB群(300-500pg/mL)を比較した場合の生化学妊娠の高さが目立ちました。
≪私見≫
ホルモン補充周期凍結融解胚移植は経皮エストラジオールパッチの斬増療法(1→4パッチ)を採用し、子宮内膜厚7mm以上でE2値>250pg/mLからプロゲステロンを投与しています。プロゲステロンはP+0は25mg 筋注、翌日からは 50mg 筋注としP+5に胚移植としています。
この報告で誤解しないほうがよいのが、ホルモン補充周期凍結融解胚移植のピークE2値が300-500pg/mLが好ましいという内容ではないということです。
経皮エストラジオールパッチ投与が300-500pg/mLに達しない投与量なのにE2上昇がある場合は卵胞発育を想像しますし、十分投与しているのにE2低値の場合は吸収不全を想像します。
ディスカッションにも書かれていますが、下記を意識して自施設での成績が安定する基準値を把握しておくことが重要だと思います。
「エストラジオールは、エストロゲン受容体と相互作用して内膜増殖とプロゲステロン受容体の合成を誘導し、着床準備を整えます。許容範疇を逸脱すると、エストロゲン受容体活性化と遺伝子発現の複雑なバランスが変化し、着床に影響を及ぼす可能性があります。」
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文責:川井清考(院長)
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