アジアでの早発PEスクリーニングの有用性(Circulation. 2024)

妊娠34週までに発症する妊娠高血圧腎症(Preeclampsia: PE)では、妊娠10~14週に起こる絨毛外トロホブラスト (EVT) の子宮筋層内浸潤が不十分となり子宮ラセン動脈壁の平滑筋層破壊が起こらず、血管内皮がEVTにより置換されるラセン動脈のリモデリング不全が認められます。絨毛間腔へ流入する母体血流量が減少すること、ラセン動脈血管腔の狭小化により流圧が上昇し絨毛障害を起こすことから、胎盤機能を反映する血管新生因子であるPIGFが減少、血管新生を阻害するsFIt-1やsENGが増加し、高血圧、蛋白尿、全身の臓器障害などの血管内皮障害に起因する病態(PE)を引き起こします。

妊娠11〜13週の平均血圧、既往歴、超音波検査による子宮動脈-PI、血清PIGF値から、早発PE発症リスクが評価できるとされています。Nicolaidesらのグループはヨーロッパのデータで、90%の妊娠34週未満PE、 75%の妊娠37週未満PE、47%の37週以降PEを予測できたと報告しています。
Neil O'Gorman, et al.Am J Obstet Gynecol. 2016 Jan;214(1):103.e1-103.e12. doi: 10.1016/j.ajog.2015.08.034.
今回、アジア地域での早発PEスクリーニングの有用性を調査した報告がでてきましたのでご紹介いたします。

《ポイント》

早発PEスクリーニングの介入期・非介入期では差がありませんでしたが、PEスクリーニングハイリスク群では、低用量アスピリン投与は妊娠高血圧症候群だけではなく、早産や周産期死亡リスクの減少と繋がる可能性が期待される結果となりました。

《論文紹介》

Long Nguyen-Hoang, et al. Circulation. 2024 Jun 26. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.124.069907.

アジアにおける早発妊娠高血圧症候群スクリーニング(早発PEスクリーニング)を用いた予防戦略の有効性、受け入れ、安全性を評価することを目的としたランダム化比較試験です。2019年8月1日から2022年2月28日に、この多施設無作為化試験にはアジア10地域(香港特別行政区、中国本土、台湾、シンガポール、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナム、日本)の産科施設が参加しました。
定期的に6週間間隔で、非介入期から介入期に移行するクラスターが1つ無作為に割り付けられました。介入群では、18歳以上妊婦の単胎妊娠11週~13週6日を対象にベイズの定理に基づくトリプルテスト(母体身体的所見および既往歴、母体平均血圧、子宮動脈-PI、血清PlGF)を用いて、早発PEスクリーニングを行いました。早発性PEの調整リスクが100分の1以上の高リスク女性には、16週未満から36週まで低用量アスピリンが投与されました。
結果:
88.04%(42,897/48,725)の女性が早発PEスクリーニングを受けることに同意しました。介入段階でハイリスクと判定された女性のうち、82.39%(2,919/3,543)がアスピリン予防投与を受けました。介入期と非介入期で早発 PE 発生率に差はありませんでした(aOR 1.59;95%CI 0.91~2.77)。しかし、介入期の高リスク女性では、アスピリン予防は早発 PE 発生率を 41%減少しました(aOR 0.59;95%CI 0.37~0.92)。さらに、34週未満PE(aOR 0.46、95%CI 0.23~0.93)、34週未満の早産(aOR 0.45、95%CI 0.22~0.92)、周産期死亡(aOR 0.34、95%CI 0.12~0.91)の発生率をそれぞれ54%、55%、64%減少させました。アスピリン関連の重篤な有害事象に差はみられませんでした。

《私見》

早発PEスクリーニングを、どのような女性に勧めていくのかが考えさせられる報告だなと思います。PE発症リスクが高くないからこそ、全例介入の有用性はないかなと思いますが、ハイリスク群には効果的であるため適切な提案が好ましいと思います。また、PEハイリスク患者がなかったとしても、希望者には実施するのは問題ないかなと思います。

この報告でもうひとつ興味深かったのはアスピリン妊婦の副作用です。
アスピリンを服用した高リスク女性における副作用1.13%(33/2923)
 最も多いのは、腟出血0.89%(26/2923)
アスピリンを服用した高リスク女性における周産期・胎児リスク
 胎児構造異常 0.72% 複合胎児染色体異常 0.1%
 分娩時1000mL以上の出血 2.37%
アスピリンを服用しなかった高リスク女性における周産期・胎児リスク
 胎児構造異常 0.64% 複合胎児染色体異常 0%
 分娩時1000mL以上の出血 1.44%

関連ブログもご参照ください。
PEスクリーニングにはPAPP-A?PlGF?(前向きコホート2022)
PE発症パターンはさまざまな種類がある(AJOG2023)
妊娠初期の妊娠高血圧予測代謝マーカーはBMIにより予測が異なる?(Am J Obstet Gynecol. 2023)

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文責:川井清考(院長)

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