PE発症パターンはさまざまな種類がある(AJOG2023)

PE(preeclampsia:妊娠高血圧腎症)発症機序として血管新生阻害状態が浮上しています。血管新生バイオマーカーは、PEリスク評価、特に初期発症リスクに効果的とされています。

≪ポイント≫

早発PE発症女性のほとんど(80%〜100%)にangiogenic/antiangiogenic因子異常を認めました。正期産のPE発症女性の約半数(39%〜55%)にのみangiogenic/antiangiogenic因子異常がみられました。それぞれのリスクをイメージしながら予防戦略を立てていく必要があると考えられます。

≪論文紹介≫

Tinnakorn Chaiworapongsa, et al. Am J Obstet Gynecol. 2023 May;228(5):569.e1-569.e24.  doi: 10.1016/j.ajog.2022.11.001.

妊娠週数によってPE発症女性におけるangiogenic/antiangiogenic因子異常割合、特徴、臨床的意義を明らかにすることを目的としました。
2つの研究を実施しました。(1) PE女性(n=151)と対照群(n=540)からなる縦断コホート内症例対照研究(longitudinal nested case control study)、(2) PE女性の症例集積研究(case series study)(n=452)。
PE発症時にangiogenic (placental growth factor [PlGF])とantiangiogenic (soluble fms-like tyrosine kinase [sFlt]-1)採血をELISAにて解析しました。血管新生プロファイルの異常は、妊娠週数中央値の10パーセンタイル未満としました。血管新生プロファイルに異常があると診断された妊娠高血圧腎症発症女性を分娩週数によって早期(34週未満)、中期(34週~37週)、後期(37週以上)と層別化しました。また、血管新生プロファイルの異常がある場合とない場合の妊娠高血圧腎症女性の患者背景、臨床特徴、妊娠転帰を比較検討しました。
結果:
血管新生プロファイル異常の有病率は、37週以上分娩群よりも37週未満早期分娩群で高くなりました(case control study:早期、中期、後期それぞれ 90%、100%、39%、case series study:98%、80%、55%)。正期産の血管新生プロファイルに異常がある妊娠高血圧腎症女性は、初産(57% vs. 35%)、喫煙しておらず(14% vs. 26%)、母親合併症(14% vs. 5%)または新生児合併症(7% vs. 1%)リスクが高く、母体還流障害を示す胎盤病変が高い(42% vs. 23%;すべて、P<.05)傾向がありました。正期産の血管新生プロファイルが正常な妊娠高血圧腎症女性は、慢性高血圧割合が高く(36% vs. 21%)、肥満割合が高い(41%vs. 23%)(P<.05)傾向にありました。
結論:
34週未満の妊娠高血圧腎症発症女性では、高率に血管新生バイオマーカーの異常が認められましたが、37週以上の妊娠高血圧腎症発症女性では50%に過ぎませんでした。
PEは、妊娠20週以降に発症した新規発症の高血圧と蛋白尿と定義しました。高血圧は4時間から1週間間隔で2回測定した収縮期血圧140mmHgおよび拡張期血圧90mmHg以上、タンパク尿は24時間蓄尿で300mg/day、蛋白尿検査キットにおいて随時尿で1+以上としました。

≪私見≫

PE女性は、病気のメカニズムと発症週数の組み合わせにより、少なくとも3つのサブグループに分類することができそうです。

  1. 母体深い部位の絨毛・胎盤形成不全を特徴とする早期PEです。妊娠第1期または第2期で同定することができます。PEの中では多いわけではありません。Angiogenic Index-1レベルが最も低く、母体・胎児合併症が最も多い群です。母体・胎児因子のindicationで34週未満にterminationになることが多いです。
  2. angiogenic/antiangiogenic因子に異常がある正期産のPEです。早期PEを起こす群と患者背景は似ていますが、Angiogenic Index-1レベルが中程度です。このグループの若く、初産、非喫煙者(86%)であり、高血圧既往がありませんでした(80%)。PEとして、肝機能異常、血小板減少、常位胎盤早期剥離、肺水腫などを引き起こすリスクが高い。このグループは発症する5-6週前のAngiogenic Index-1レベル異常によって特定される可能性があります。しかし、適切な検査時期やバイオマーカーは定まっていません。angiogenic/antiangiogenic因子の異常の原因として胎盤発育に対する物理的制限によって引き起こされる細胞栄養芽細胞のストレスと老化が原因と考えられています。
  3. Angiogenic/antiangiogenic因子に異常がない正期産のPEです。このグループは、BMI 35以上の肥満、多胎、高血圧既往がある場合が多いです。母体合併症および胎児合併症のリスクが最も低いものの、肺水腫や胎児死亡などの重大な合併症に遭遇することがあります。胎盤病変頻度は、正常妊娠とほぼ変わらず、そのほかのメカニズムが関与している可能性が指摘されています。

文責:川井清考(院長)

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