PEスクリーニングにはPAPP-A?PlGF?(前向きコホート2022)
PEスクリーニングを行い、ハイリスク群にはアスピリン(妊娠11-14週から36週まで150mg/日)を投与すると、37週未満(preterm)でのpreterm PE率が約60%減少するため、妊娠初期にPEスクリーニングを行うことは有益だとされています。
Rolnik DL, et al. N Engl J Med. 2017;377(7):613–22.
Roberge S, et al. Am J Obstet Gynecol. 2018;218(3):287–93.e1.
妊娠初期のPEスクリーニングにてPlGF、PAPP-Aを測定し、母体リスク、平均動脈圧と子宮動脈拍動指数(UtA-PI)と組み合わせることで予測精度があがるかどうか調査した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
妊娠初期におけるPEスクリーニングのバイオマーカーとして、PAPP-Aに比べてPlGFの方が予測精度向上に寄与することがわかりました。
≪論文紹介≫
David Wright, et al. BJOG. 2022 Jul;129(8):1308-1317. doi: 10.1111/1471-0528.17096.
妊娠11週0日から13週6日の妊娠初期スクリーニングにて単胎妊娠女性8,775人と16,451人を対象としPEリスクの予測精度を検討した2つの独立した多施設前向きコホート試験です。母体リスクと平均動脈圧、UtA-PI、PlGFまたはPAPP-Aの組み合わせに基づき、妊娠37週未満でのPEリスクを推定しました。 アスピリンの影響を調整しPlGFを用いたスクリーニングとPAPP-Aを用いたスクリーニングのpreterm PEリスク検出率を比較しました。
結果:
2つのコホート研究における25,226名のデータでは、PE発症は678人(2.7%)であり、preterm PE発症は194人(0.8%)でした。 PlGF項目を追加するとpreterm PEリスク検出率は約10%あがることがわかりました。母体リスクのみとの予測に比べて18.4%(95%CI 12.2-24.6)、母体リスクと平均動脈圧による予測に比べて19.9%(95%CI 13.6-26.2)、母体リスク、平均動脈圧、UtA-PIによる予測に比べて7.0%(95%CI 2.3-11.6 )の改善を認めました。 PAPP-Aは、どのバイオマーカーの組み合わせでも、予測率を向上させることはありませんでした。
≪私見≫
この報告では、PE(preeclampsia:妊娠高血圧腎症)の定義として新規発症の高血圧(それまで正常血圧であった女性が妊娠20週以降に発症した4時間間隔で少なくとも2回、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上)であるか、慢性高血圧と以下の少なくとも1つ(蛋白尿(300mg/24時間以上またはスティック検査で蛋白/クレアチニン比30mg/mmol以上または2+以上)、腎疾患の基礎疾患がないのに血清クレアチニン97μmol/l以上の腎機能不全、肝機能障害、血小板減少(<100000/μl)、神経系合併症(例. 脳や視覚の症状など)、肺水腫などとしています。
ただし、FIGO、NICEの基準では、uteroplacental dysfunction such as fetal growth restriction, abnormal umbilical artery Doppler waveform analysis or stillbirthも含まれるため、ここまで含んだ場合にもPAPP―AとPlGFの予測精度にこの程度の差があるかどうか不明であるとコメントが寄せられています。
Charlotte Leeson, et al. BJOG. 2022 Apr 21. doi: 10.1111/1471-0528.17182.
たしかに、日本でも妊娠高血圧腎症の定義は海外のPEとはやや異なります。民族にあわせて調整していくことが必要だと感じますので、国内データもまとめていく必要があるかと思っています。
文責:川井清考(院長)
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