日本人患者の個別化調節卵巣刺激のART calculatorの試み(Reprod Med Biol. 2023)

卵巣刺激による回収卵子数は患者背景や使用薬剤・組み合わせ方法によって差がでてくると思います。今回、日本人患者の個別化調節卵巣刺激(目標回収卵子数・刺激期間)を調整するためのゴナドトロピン開始用量設定calculatorを作成された報告をご紹介します。

≪ポイント≫

施設内の治療成績を安定させるためのART calculatorの作成の試みを行い高い精度を示しています。卵巣刺激による回収卵子数の調整予測は比較的シンプルな因子で決定されている可能性があります。
小塙医院が今回報告したゴナドトロピン開始用量設定calculatorのURLです。
https://www.calconic.com/calculator-widgets/fsh/62c3f68141bd400029ac7eda?layouts=true

Masato Kobanawa. Reprod Med Biol. 2023 Jan 20;22(1):e12499.  doi: 10.1002/rmb2.12499.

GnRHアンタゴニストプロトコルを用いて調節卵巣刺激を実施しました。単回帰分析によりoocyte sensitivity index(OSI)を予測する変数として、女性年齢、AMH、FSHを選択し、各変数に対して後ろ向きステップワイズ重回帰分析を行いました。
ゴナドトロピン開始用量設定calculatorの作成:
2020年4月から2022年3月までに体外受精を実施した36.16±4.53歳の100人100周期で構成された。ゴナドトロピンの開始量は、女性年齢とAMHに基づいたLa Marcaのノモグラムを使用しました。25-40歳の患者を対象としており、ゴナドトロピン開始用量は75-230単位で決定されます。ノモグラムのゴナドトロピン量が112.5〜187.5単位→150単位、187.5〜230単位→225単位とし、40歳以上でAMH 3.0ng/ml未満の患者には300単位、40歳未満でAMH 0.5ng/ml未満の患者にはノモグラムでFSH開始量を225単位以上と設定して開始投与としています。主要評価項目はoocyte sensitivity index(OSI)とし、回収卵子数/ゴナドトロピン総投与量(単位)で計算しました。OSIを予測する変数として、女性年齢、AMH、体重、卵胞期ホルモン値(E2、FSH、LH)を使用しています。

結果:
後方ステップワイズ重回帰分析の結果、女性年齢とAMHが予測変数として選択され重回帰式を作成しました。この式を回収卵子数/(ゴナドトロピン開始用量×刺激期間日数)に分解し、目標回収卵子数/刺激期間日数からゴナドトロピン開始用量を予測する計算式を作成しました。
作成したゴナドトロピン開始用量設定calculatorグループ12名とコントロールグループ21名で比較し、ゴナドトロピン開始用量算出モデルは、卵子数の予測精度が高いことをしめしました。

≪私見≫

ART calculatorの試みがとても重要だと思っていますし、国内でも普及し治療の均てん化が図られるべきだと思います。海外での生児獲得率を予測するART calculatorの報告は以前ご紹介させていただきましたブログもご参照ください。

今回の報告は、日本人患者の個別化調節卵巣刺激(目標回収卵子数・刺激期間)を調整するためのゴナドトロピン開始用量設定calculatorですが、人種間によるゴナドトロピン感受性の差などもありますので、意義がある解析研究であると思っています。
小塙先生、いつも熱心に診療に取り組まれていらっしゃいますので、今回の報告も非常に勉強させていただきました。

文責:川井清考(院長)

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