ネオ・セルフ抗体(β2GPI/HLA-DR複合体に対するネオ・セルフ抗体)について
不育症は施設により受けられる検査・治療に幅があります。
総論は過去のブログをご参照ください。
当院では、一般的な不育症検査(日本での不育症検査・治療の実態(論文紹介))は実施しております。そのほか、子宮内膜NK細胞活性(NKp46発現は免疫学的反復流産のマーカーになる?(論文紹介))は兵庫医科大学と連携して行っております。
これに加えて、2023年1月よりβ2GPI/HLA-DR複合体に対する自己抗体(ネオ・セルフ抗体)を測定できる状況を整備いたしましたのでご報告させていただきます。
≪ポイント≫
ネオ・セルフ抗体は不育症と関連していることがわかっています。
抗リン脂質抗体症候群(APS)を引き起こす抗体の標的と考えられているβ2GPIタンパクとAPSになりやすい型のHLAクラスⅡの複合体を細胞表面に出した細胞を作成し、患者の血液と反応させて、細胞表面の複合体と結合した抗体(ネオ・セルフ抗体)を検出します。このネオ・セルフ抗体が最近発見された抗体で2015年のBlood誌に報告されました。この報告ではネオ・セルフ抗体は絨毛毛細管内皮細胞(Placental Vascular Endothelial Cells)を損傷する可能性にも触れられています。
①不育症でのネオ・セルフ抗体の陽性率について(論文紹介)
Kenji Tanimura, et al. Arthritis Rheumatol. 2020 Nov;72(11):1882-1891. doi: 10.1002/art.41410.
5つの大学病院で不育症女性227人に対し、新しい自己抗体(ネオ・セルフ抗体)と不育症危険因子、HLA-DR 免疫タイピングを検査した前向き多施設横断研究です。
妊娠可能な健康な女性208人(正常分娩既往あり、流産既往・自己免疫疾患既往はない女性としています。)をコントロール群として、これらの抗体測定の正常範囲とカットオフ値を設定しました。
危険因子の採血項目ですが、TSH(甲状腺機能亢進症は0.4μIU/ml以下、甲状腺機能低下症は2.5μIU/ml以上)、血清IgG aCL値(正常閾値<10単位/ml)、IgM aCL値(正常閾値<8単位/ml)、aCL/β2GPI値(正常閾値<1.8単位/ml)、LA(正規化比<1.3)を測定した。IgG抗β2GPI値(正常閾値<20単位/ml)およびIgM抗β2GPI値(正常閾値<20単位/ml)、プロテインS活性(正常範囲60〜150%),プロテインC活性(正常範囲67〜127%),凝固第XII因子活性(正常範囲50〜150%)としました。
結果:
ネオ・セルフ抗体の正常範囲(<52.6)はコントロール群の99パーセンタイルとしています。
不育症女性227人の危険因子は,子宮奇形(8.4%),甲状腺機能障害(6.6%),染色体核型異常(男性および女性パートナー)(4.8%),aPL陽性(19.8%),原因不明(53.3%)となっていて、ネオ・セルフ抗体は22.9%でした。危険因子別にネオセルフ抗体が陽性であった女性の割合は以下の通りであった:子宮奇形(19人中5人、26.3%)、甲状腺機能障害(15人中4人、26.7%)、女性および男性パートナーの染色体核型異常(11人中2人、18.2%)、aPL陽性(45人中17人、37.8%)、凝固第XII因子活性低下(21人中6人、28.6%)、プロテインS活性低下(35人中7人、20%)、プロテインC活性低下(4人中1人、25%)でした。不育症女性227人中121人(53.3%)は危険因子が見つかりませんでしたが、そのなかの24人(19.8%)がネオセルフ抗体陽性でした。ネオ・セルフ抗体陽性であった不育症女性では、陰性であった不育症女性とくらべて、不育症になりやすいとされるHLA-DR4という遺伝子型の頻度が高くなっていました。
②ネオ・セルフ抗体陽性不育症患者の治療法について
論文はこれからだと思いますが、同グループが中心となった複数施設共同研究では、ネオ・セルフ抗体陽性判明後の不育症女性75妊娠の解析にて低用量アスピリン治療もしくは低用量アスピリン;ヘパリン治療が有効である可能性を報告しています。(谷村憲司ら:第4回日本不育症学会 一般演題)
③そのほか
こちらも未だ論文にはなっていませんが、反復着床不全/子宮内膜症との関連も報告されています。不妊症患者224名でネオ・セルフ抗体保有率を測定した前向きコホート研究では、多変量解析にて3回以上の反復着床不全(OR: 3.25, 95% CI: 1.15-9.22)、子宮内膜症(OR: 2.60, 95% CI: 1.13-5.96)とネオ・セルフ抗体は関連を示しています。(小野洋輔ら:第4回日本不育症学会 一般演題 他)
文責:川井清考(院長)
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