精液所見正常症例での精索静脈瘤手術_その①(論文紹介)

Q.精液所見が正常の場合でも精索静脈瘤があったら手術をした方が良いのでしょうか?①
A.流産を繰り返すような場合は、精液所見が正常でも精索静脈瘤手術のメリットがあります。

≪今回ご紹介する論文≫

Effects of varicocele repair on spontaneous first trimester miscarriage: a randomized clinical trial.
Mansour Ghanaie M, Asgari SA, Dadrass N, Allahkhah A, Iran-Pour E, Safarinejad MR. Urol J. 2012 Spring;9(2):505-13. PMID: 22641495.

妊娠初期に自然流産をきたしたカップルにおける精索静脈瘤手術の効果:無作為化比較試験

精索静脈瘤は、健常人でも15%前後、男性不妊症症例では30-40%程度に認められるとされています。男性不妊症の原因としては、もっとも頻度の高い疾患です。治療が可能な疾患であり、根治的な治療は精索静脈瘤手術となります。一般的な手術適応は、男性不妊症症例で、精液所見の異常を伴う触知可能な精索静脈瘤といった条件があります。したがって、精液所見が正常な場合は積極的な手術適応とはされておりません。しかしながら、精液所見が正常でも手術するメリットがあるとする研究が散見されます。今回ご紹介する研究はすこし古いものですが、無作為化比較試験を行ったもので、とても興味深いものです。

≪研究の要旨≫

この研究の目的は、妊娠初期の流産を繰り返すカップルにおける精索静脈瘤手術が精液所見、妊娠率、生児獲得に対してどのような効果があるのかを検討することです。
対象と研究方法は以下のようになっています。この研究には、再発流産の女性136名が参加しました。男性パートナーは全員、WHOの基準では精液所見が正常であり、臨床的に診断された精索静脈瘤を有していました。再発性の流産の原因を評価するために、染色体異常と内分泌疾患、慢性炎症性疾患、感染性疾患について精査をしました。これらの症例は、男性/女性の年齢、精索静脈瘤のグレード、喫煙歴が一致した二群にわけられました。この二群は、男性パートナーが精索静脈瘤手術を受ける第1群(n=68)と、待期的治療を受ける第2群(n=68)に無作為に振り分けられました。すべてのカップルは12カ月間、毎月受診しフォローアップされました。妊娠を得た女性は全員、出産までフォローアップされました。各3ヶ月のフォローアップの際に、2回の精液検査が行われました。
以下の通りの結果となりました。精子濃度、精子運動率、精子正常形態率の平均値は、精索静脈瘤手術から6カ月経過後、大気療法群群に対してそれぞれ75.0%、15.9%、14.3%の有意な改善を示しました(P<0.01)。12ヵ月以内の全体の妊娠率は,第1群では44.1%,第2群では19.1%でした(P=0.003)。第1群と第2群で妊娠した女性のうち、流産となったのは、それぞれ13.3%と69.2%となりました(P=0.001)。妊娠率や生児獲得率は、手術実施群で有意に良好で、流産率も手術群で有意に低い結果でした(表)。精子密度/mL(r=0.072; P=0.001)、精索静脈瘤手術からの経過時間(r=0.068; P=0.001)、女性年齢(r=-0.062; P=0.002)の3つは重回帰分析により妊娠率と最も有意に関連する独立因子でした。
結論としては、精索静脈瘤手術は精液所見を改善し、妊娠率を向上され、流産率を有意に減少させるということになります。この結果を確認するためには、さらなる対照研究が必要であると考えられます。

表. 精索静脈瘤手術実施群と非実施群での妊娠予後の比較

  手術群実施群
68例
手術未施行群
68例
Chi-Square または
Fischer’s exact test
妊娠例(例) 30 13 P=0.001
生児獲得(例) 26 4 P=0.002
流産(例) 4 9 P=0.001
妊娠なし(例) 8 42 P<0.0001

 

≪筆者の考察≫

精液所見正常でも妊娠初期流産を繰り返すような症例では、精索静脈瘤があった場合は手術するメリットが十分あることを示した貴重な研究です。症例数は多くありませんが、無作為化試験を行なっていることは素晴らしいです。術後の精液所見は、正常範囲の中でさらに良くなっていましたし、妊娠率、生児獲得率、流産率について手術群で有意に良好な結果でした。この研究では、従来の精液検査所見のパラメータでの変化を解析しており、最近普及してきている精子DNA断片化率や、精液中の酸化還元電位といった精子や精液の質をみる指標については評価していません。これらの指標にもともと相違があったり、術後の変化に相違があった可能性もあります。
少なくとも、流産をくりかえした症例においては、精液検査の結果がWHOの基準値を満たしていても精索静脈瘤手術が十分メリットあることを患者さんに提示できるデータだと考えられます。女性側の治療をしていない症例の場合や、IVFやICSIでの胚発生の異常がある場合に手術のメリットがあるかどうかは今回の研究では不明です。今後の発展にきたいところです。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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