アトピーと不妊症(論文紹介)

アトピー性皮膚炎と不妊症に関する大規模な疫学データは不足しています。
アトピー性皮膚炎と不妊症の関係はBlafossらがシステマティックレビューで報告しており、女性のアトピー性皮膚炎と子供の数を調査した研究は6件のみでした。2件の研究ではアトピー性皮膚炎女性では非アトピー性皮膚炎女性と比較して子供の数が減少(Karmaus W, et al. Pediatr Allergy Immunol. 2003、Silverberg JI. F1000 Res. 2018.)、2つの研究では差がなく(Sunyer J, et al. Clin Exp Allergy. 2005.、Gade EJ, et al. Eur Respir J. 2014.)、2つの研究ではアトピー性皮膚炎女性では子供の数が増加(Nilsson L,. Pediatr Allergy Immunol. 1997.、 Tata LJ, AM J Epidemiol. 2007)するとしていて矛盾した結果となっています。
今回、イスラエルの半数以上の人が加入している大きな公的医療機関データベースを用いたアトピー性皮膚炎と不妊症の疫学研究をご紹介いたします。

≪ポイント≫

アトピー性皮膚炎群と不妊症に関連が認められました。過去の報告も含めて、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は生殖機能になんらかの影響をあたえていそうです。

≪論文紹介≫

Amir Horev, et al. Dermatology. 2022;238(2):313-319.  doi: 10.1159/000515600.

イスラエルのアトピー性皮膚炎と不妊症との関連を調査したレトロスペクティブ・コホート研究です。2002年から2018年に皮膚科医によって診断されたアトピー性皮膚炎とマッチさせたコントロール群とを比較しました。成人(18歳以上)/小児(18歳未満)、アトピー性皮膚炎重症度、アトピー性皮膚炎関連の薬剤使用により軽度/中等度から重度のいずれかに分類しました。
結果:
アトピー性皮膚炎群127,150人、コントロール群127,071人を対象としました。
アトピー性皮膚炎群はコントロール群より不妊症である割合が高くなっていました(コントロール群:1399/127071(1.1%)、全年齢アトピー性皮膚炎群 1788/127150(1.4%)、全年齢アトピー性皮膚炎群 男性 785/60160(1.3%) 、全年齢 アトピー性皮膚炎群女性 1003/66911(1.5%)、 成人のアトピー性皮膚炎群1788/42548(4.2%)、成人の中等度から重症のアトピー性皮膚炎 119/3022(3.9%))。多変量解析により、アトピー性皮膚炎群は軽症および中等症から重症の男女ともに不妊症の主要な危険因子であることが示されました。

≪私見≫

アトピー性皮膚炎でも関連するとされている細胞のジャンクションを構成するclaudin/occludinの子宮・精巣での機能異常・発現異常が不妊に関連しているのではという仮説もあります。アトピー性皮膚炎の病勢と不妊が関係するかどうかを示した報告はありません。今後、アトピー性皮膚炎の治療介入前後で不妊治療成績が変わるかどうかなどの報告がでてくるのを心待ちにしたいと思います。

文責:川井清考(院長)

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