反復着床不全はどう定義する?(論文紹介)

着床(胚盤胞期胚の子宮内膜への接着、付着、侵入)には、複雑なサイトカインおよび細胞のクロストークが必要です。子宮内膜が胚を受容可能とする時期は、黄体によるプロゲステロン産生のピーク時であり、十分なプロゲステロンに1週間にわたって暴露されることにより内膜の組織学的変化が起こります。Day3の分割期胚はhCG mRNAを発現していますが、hCGが臨床的に検出可能になるのは胚盤胞のtrophoblastの内膜に浸潤して増殖する排卵後10〜11日目(3週3日-3週4日)とされています。
着床異常は着床不全だけではなく、妊娠高血圧腎症、子宮内胎児発育制限、流産とも関係するとされています。絨毛・胎盤が正常に発育するためには、妊娠初期に胎児の栄養膜細胞が脱落膜に浸潤し、胎盤床のらせん状動脈を変化させる必要がありますが、栄養膜細胞の浅い浸潤、らせん動脈内皮の細胞外栄養膜細胞への置換不全、血流の不足は妊娠高血圧腎症や子宮内胎児発育不全と強く関連してますし、置換が高度におこると癒着胎盤の発生要因となります。
着床と反復着床不全の定義を振り返ってみましょう。

≪論文紹介≫

Garneau AS, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.10.023
着床不全を考える上で、一番問題となっているのは何を「着床」と定義するかです。
現在のところ、「血清hCG=胚盤胞の栄養膜細胞の内膜への浸潤の代用」として使用することが一般的です。SARTではimplantation rateを胎嚢数/移植胚数としています。
しかし、この方法では胚盤胞の栄養膜細胞の内膜への浸潤から胎嚢形成までに消失した生化学妊娠を着床として含めることができません。
臨床的有用性の観点からは、着床は血清hCG検出時、胎嚢確認、心拍確認の3つの角度から検討することが好ましいとされています。
では「反復着床不全」の定義はどのように考えるかです。
施設・地域によって基準が異なっていて735 人の医師を対象とした調査では84%の医師は移植された胚数に基づいて「反復着床不全」を定義しており、最大のグループ(45%)は新鮮または凍結胚の移植が3回失敗した場合に「反復着床不全」を定義していました。他にも様々な定義を提唱している報告者たちがいます。ESHRE PGT Consortiumでは、高品質の胚を用いた胚移植が3回以上失敗した場合、または複数回の胚移植で10個以上の胚を移植できなかった場合を「反復着床不全」と定義していますが、ASRMでは具体的な基準を示していません。
年齢別には正常核型胚の割合が異なるので「母体因子」や「子宮内膜-胚の着床における不調和」を反復着床不全の原因と強く疑う場合は提唱されている統計モデルなどから推測することも選択肢に挙げられますが、現在のところデータも不足しており実運用は難しいのが実情です。
~関連ブログ~
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≪私見≫

着床不全を患者様に伝えるのは本当に難しいですよね。良い胚盤胞ができた段階で妊娠にかなり近づいたと大半のカップルは感じていますから、そこから大きなハードルがあることは中々想定しづらいですし、「母体因子」や「子宮内膜-胚の着床における不調和」が不妊原因だと思った時に女性は自分のせいだと自責してしまう方がほとんどです。
不妊はカップルの病気なので二人で向き合うことが大事ですので一人で抱え込まないことが必要です。ただ、同時に今置かれた環境をうけとめることも大事です。
患者様に正しく情報を提供する上で、私たちはひとつでも多くの情報を集めることしかできません。その時にも間違った解釈をしないように意識して論文を読みます。
着床・妊娠の定義は多様ですので、論文を読む時、必ず確認する内容です。
時間がいくらあっても足りません。
今回のreviewを通して私が得た情報として、「sustained implantation rate=心拍が確認できた胚数/移植胚数」という定義、臨床に直結しそうですので少し意識して評価してみたいと思います。

文責:川井清考(院長)

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