帝王切開でのBarbed Sutureはニッチを減らせる?(Am J Obstet Gynecol MFM. 2024)

先日、帝王切開瘢痕症候群の一層縫合・二層縫合どちらがよいのかというブログを紹介いたしました。
帝王切開(子宮切開)は一層縫合?二層縫合?長期予後(Am J Obstet Gynecol. 2024)
帝王切開(子宮切開)は一層縫合?二層縫合?ニッチ形成(BJOG. 2021)
国内では、二層縫合ですが有刺糸連続縫合(Barbed Suture)を用いた帝王切開が始まっています。ニッチは減らせるのでしょうか。

≪ポイント≫

帝王切開には、有刺糸連続縫合(Barbed Suture)を用いた二層縫合が有効そうです。

≪論文紹介≫

Jota Maki, et al. Am J Obstet Gynecol MFM. 2024 Jul 16;6(9):101431. doi: 10.1016/j.ajogmf.2024.101431.

帝王切開瘢痕症候群について、有刺糸縫合(Barbed Suture)と従来の縫合とで臨床的および超音波学的転帰を比較検討した多施設共同並行群間無作為化対照臨床試験である。2020年5月から2023年3月までに初回帝王切開分娩を必要とする女性1,211名をリクルートしました。298名が帝王切開を受け、253名が2023年7月まで追跡されました。単胎妊娠の参加者は、有刺糸縫合(Barbed Suture)と従来の縫合による二層連続縫合を無作為に割り付けました(1:1)。主要評価項目は、術後6~7ヵ月目に経腟超音波検査で評価された2mmを超えるニッチの割合としました。副次評価項目として、総手術時間、縫合時間、手術出血量、止血に必要な追加縫合糸の数、手術合併症、術後感染症、産婦人科経験年数などを検討しました。
結果:
220名(有刺糸縫合:110名、従来縫合:110名)の比較結果は以下のとおりであった。
ニッチ長さ: 2.45±1.65mm(1.0-6.7) vs. 3.79±1.84mm(1.0-11.0)(P<.001)
ニッチ深さ: 1.78±1.07mm(1.0-5.7) vs. 2.70±1.34mm(1.0-11.0)(P<.001)
RMT: 8.46±1.74mm(4.8-13.0) vs. 7.07±2.186mm(2.2-16.2)(P<.001)
ニッチ幅1.58±2.73mm(0.0-14.0) vs. 2.88±2.36mm(0.0-11.0)(P<.001)有刺糸縫合群(29.1%; 32/110)では従来の縫合群(68.2%; 75/110)よりもニッチ発生率が低くなりました。副次評価項目の手術時間、手術合併症、術後合併症に差は認められませんでした。

≪私見≫

2023年に帝王切開瘢痕症候群がCesarean Scar Disorder(CSDi)と統一病名とされました。帝王切開術式は出血や子宮破裂の観点だけではなく、CSDiの発生率を意識した議論が始まりそうです。
Barbed Sutureは抗菌性モノフィラメント吸収性縫合糸であり、返しが筋層に密着するため過度な牽引の必要性がなく、組織のヨレを気にする必要がありません。子宮筋層の止血効果も高く、縫合不全も起こりにくいとされています。そして連続縫合を用いることで手術時間短縮、結節縫合の結紮玉での創傷治癒遅延も気にせず、術者の熟練度に差が出にくくなっています。今後、帝王切開でのBarbed Sutureは標準化されるのでしょうか。楽しみです。

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文責:川井清考(院長)

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