非閉塞性無精子症に対する組み換えhCG製剤によるホルモン刺激と精子採取成功について(その2)
≪研究の紹介≫
Clinical Factors Impacting Microdissection Testicular Sperm Extraction Success in Hypogonadal Men with Nonobstructive Azoospermia
性腺機能低下症を伴う非閉塞性無精子症における顕微鏡下精巣内精子採取術の成績に影響する臨床的因子について(その2)
Esteves SC, et al. Fertil Steril. 2024 Jun 21:S0015-0282(24)00544-2. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.06.013. PMID: 38909671.
(2024年7月10日現在で掲載前の論文です)
非閉塞性無精子症に対する精巣内精子採取術での精子採取を予測する方法を見つけるために行われた研究で、性腺機能低下症症例において組換えhCG製剤によるホルモン刺激療法を行なったかどうかを含めて検討した研究の紹介の2回目です。
前回は目的や対象、研究方法までご紹介しました。
今回はその結果についてご紹介します。
≪研究の要旨≫
(その2)
結果ですが、全体のmicro-TESE成功率は56.6%でした。
FSH値の基礎値(調整オッズ比0.97、95%信頼区間0.94-0.99、p=0.04)、SR前のホルモン刺激療法#実施(調整オッズ比2.54、1.64-3.93、p=0.0002)、臨床的な精索静脈瘤の存在(調整オッズ比0.05、0. 01-0.51、p=0.04)、精索静脈瘤手術の既往あり(調整オッズ比2.55、1.26-5.16、p=0.01)、精巣組織所見(p<0.01)がSR成功の独立した予測因子でした。
ホルモン刺激治療を受けた患者では、micro-TESE前の総テストステロン(T)値およびデルタT(基礎値からのからのT値の絶対的増加)がSR成功と関連していました(p<0.05)。
micro-TESE前のT値の418.5ng/dL(AUC:0.78)、デルタT値の258ng/dL(AUC:0.76)が閾値となり、SRの成功と不成功の症例を区別できました。
サブグループ分析によると、SR前のホルモン刺激療法は、ゴナドトロピン値正常群(FSH<12 IU/L)において、ゴナドトロピン高値群(FSH≧12 IU/L)よりも有益な結果でした。
この研究の結論として、性腺機能低下症のNOA男性における臨床的因子には、micro-TESEの成功を予測するものがあることがわかりました。因果関係は確立されていませんが、この研究結果から、これらの症例においてSR前の治療介入、特にホルモン療法と精索静脈瘤手術が治療成績向上に寄与する可能性があることが示唆されます。
#この研究でのホルモン刺激療法について
内因性T産生を高めるために、遺伝子組換えHCG(rec-hCG;choriogonadotropin alfa)が適応外で使用されました。患者はrec-hCGを80μg(〜2,080IUに相当)を週2回皮下に自己注射し、T値が350ng/dLから900ng/dL以下に維持するように調整されました。rec-hCG投与中に血清FSH値が1.5IU/L未満に低下した場合は、遺伝子組換えヒトFSH(rec-FSH;follitropin alfa)も150IU週3回投与としました。hCG療法中にT/E2比が10以下に低下した場合、アロマターゼ阻害剤(アナストロゾール)を適応外で1日1mg経口投与されました。治療例では、最低3ヶ月の治療が行われました。
また、ホルモン刺激療法を受けるかどうかは、患者さんの意思で決定されました。
表1. 多変量ロジスティック回帰における精子採取成功と関連する変数(予測因子)
予測因子 | 調整オッズ比 | 95%信頼区間 | P値 | |
---|---|---|---|---|
FSH 基礎値 | 0.97 | 0.94-0.99 | 0.04 | |
精子採取術前のホルモン療法#実施あり | 2.54 | 1.64-3.93 | 0.0002 | |
精索静脈瘤あり | 0.05 | 0.01-0.51 | 0.04 | |
精索静脈瘤手術の既往あり | 2.55 | 1.26-5.16 | 0.01 | |
精巣病理組織 | Hypo-MA Hypo-SCO MA-SCO |
182.0 356.6 1.99 |
117.8-281.3 253.3-522.0 1.28-3.10 |
<0.0001 <0.0001 0.001 |
Hypo, Hypospermatogenesis; MA, Germ cell maturation arrest; SCO, Sertoli cell-only. 精巣の組織標本は、micro-TESEの術中に精巣の中心部から3mmx3mmx3mmの組織を採取して評価されました。
表2. FSH閾値による精子採取術前にホルモン刺激療法#を受けている症例(実施)と受けていない症例(未実施)における精子採取成功のオッズ比
因子 | 粗オッズ比 (95%信頼区間) |
P値 | 調整オッズ比 (95%信頼区間) | P値 |
---|---|---|---|---|
ゴナドトロピン基準値内(FSH<12 IU/L) (n=295) |
||||
ホルモン刺激療法# 未実施(n=164) |
1 | − | 1 | − |
ホルモン刺激療法# 実施 (n=131) |
2.25 (1.34-3.80) |
0.01 | 3.20 (1.59-6.44) |
0.001 |
ゴナドトロピン高値 (FSH≧12 IU/L) (n=321) |
||||
ホルモン刺激療法# 未実施(n=161) |
1 | − | 1 | − |
ホルモン療法療法# 実施 (n=160) |
1.71 (1.10-2.68) |
0.01 | 1.46 (0.74-2.88) |
0.27 |
表3. micro-TESE成功を予測する因子のROC解析結果のまとめ
micro-TESE成功の予測因子 | 閾値 | AUC | 感度 | 特異度 | 陽性 適中率 |
陰性 適中率 |
---|---|---|---|---|---|---|
1.FSH | 9.8 IU/L | 0.640 | 0.46 | 0.77 | 73.7% | 52.6% |
2.テストステロン濃度* | 418.5 ng/dL | 0.777 | 0.78 | 0.71 | 82.8% | 64.3% |
3.ホルモン療法によるテストステロン濃度の上昇幅 | 258 ng/dL | 0.761 | 0.50 | 0.92 | 91.2% | 50.8% |
1-3の組み合わせ | 0.790 | 0.79 | 0.68 | 78.7% | 64.5% |
*テストステロン濃度は、micro-TESE前に測定した値です。
≪筆者の意見≫
海外の症例のため、micro-TESE成功率はとても高いので結果をそのまま我が国の症例に当てはめることはできません。
精子採取成功のためには、FSHは9.8以下がよく、micro-TESE前のT濃度は高い方がよく、ホルモン刺激に大きく反応した方がよく、また精索静脈瘤手術はしておいた方が良いという結果です。NOAでテストステロンが低めの方は少なくありませんので、この結果を見ると、re-hCGを使ってみたくなります。FSHについては、調整前の解析では値に関わらずホルモン刺激をおこなった方がよいという結果で、試みる価値はありそうです。
ちなみに、この研究の症例は5つのAPHRODITEグループの主にグループ4(または3)となると考えられ、HCG(±FSH)となっており、治療の考え方としては共通のものになっています。
いずれにしても我が国では保険適用とは言えず、用量の調節ができるre-hCG製剤もないため、すぐに取り入れることはできませんので、今後の研究の発展に期待したいと思います。
文責:小宮顕(泌尿器科部長)
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泌尿器科専門医・指導医、生殖医療専門医の小宮顕部長が担当します。
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