非前置胎盤性癒着胎盤のリスク因子(Reprod Med Biol. 2024)

何らかの原因で子宮脱落膜が欠損し、絨毛組織が直接子宮筋層内に侵入して癒着胎盤となると考えられています。帝王切開、子宮内操作などの手術後など子宮内膜に損傷が残る場合に癒着胎盤リスクが上昇するとされています。非前置胎盤性癒着胎盤リスクが体外受精胚移植方法で変化するかどうか調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

前置胎盤のない癒着胎盤リスク因子として新たに「・内膜が移植時薄い場合・ホルモン補充周期の場合・低置胎盤がmigrateして解消された場合」に注意する必要がありそうです。

≪論文紹介≫

Seiko Matsuo, et al. Reprod Med Biol. 2024 Jul 23;23(1):e12592. doi: 10.1002/rmb2.12592.

非前置胎盤癒着スペクトラム(PAS)は、生殖補助医療との関連が複数報告されています。ホルモン補充周期凍結融解胚移植妊娠における非前置胎盤PAS有病率とリスク因子を評価することを目的としました。
3生殖医療施設で妊娠成立し、一つの周産期センターで分娩に至った279名の女性を対象としたこのレトロスペクティブ研究です。胚移植時の子宮内膜厚、既往歴、胚移植の種類(ホルモン補充周期凍結融解胚移植、自然排卵周期凍結融解胚移植、新鮮胚移植)に関するデータを収集しました。
結果:
非前置胎盤癒着スペクトラムの有病率はホルモン補充周期凍結融解胚移植群で27/192(14.1%)、自然排卵周期凍結融解胚移植群、新鮮胚移植群ともに0(0.0%)でした。非前置胎盤癒着スペクトラムの高いオッズ比[95%信頼区間]は、堕胎既往(6.45[1.98-21.02])、子宮内膜厚<8.0mm(6.11[1. 06-35.12])、低置胎盤のmigration後(5.73[2.13-15.41])、多胎(2.90[1.26-6.69])、多嚢胞性卵巣症候群(2.62[1.02-6.71])、および絨毛膜下血腫(2.49[1.03-6.04])と関連していました。
結論:
低置胎盤の解消は、HRC-FET妊娠における非前置胎盤PASの高リスク集団の出生前検出に役立つ可能性があります。

≪私見≫

生殖補助医療が非前置胎盤性癒着胎盤のリスク因子である可能性は以前から指摘されていますが、妊娠高血圧症候群と同様にホルモン補充周期胚移植(黄体がない場合)でリスク因子が上昇する可能性があることは興味深い結果だと思います。
今回の検討では、PCOSと絨毛膜下血腫も非前置胎盤性癒着胎盤のリスク因子として単変量解析では有意差を認めましたが、多変量解析では差がなくなっています。症例数が少ないため差がつかなかったのか、本当は差がないのかは興味深いところではあります。

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文責:川井清考(院長)

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