前置胎盤の有無による癒着胎盤の特徴の違い(Am J Obstet Gynecol MFM. 2023)

癒着胎盤は、胎盤絨毛が子宮筋層内に侵入し胎盤の一部又は全部が子宮壁に強く癒着して胎盤の剥離が困難なものを癒着胎盤といいます。

  • 単純癒着胎盤(placenta accreta): 絨毛が子宮筋層表面にのみ癒着し、筋層内に進入していないもの
  • 侵入胎盤(placenta increta): 絨毛が子宮筋層深く侵入しているが、漿膜面に達していないもの
  • 穿通胎盤(placenta percreta): 絨毛が子宮筋層を貫通し、漿膜面まで及んでいる状態のもの

前置胎盤の有無による癒着胎盤の特徴の違いをまとめたメタアナリシスをご紹介いたします。

≪ポイント≫

前置胎盤の有無による癒着胎盤スペクトラムの臨床的側面の違いを理解
前置胎盤なしの癒着胎盤の特徴(前置胎盤と比較して)
・侵襲性胎盤リスクが低い。  ・異常分娩時出血量が少ない。
・子宮摘出割合が少ない。   ・分娩前診断がつきにくい。
・母体年齢は関係なさそう。  ・生殖補助医療との関連が強い。
・帝王切開既往との関連が低い ・子宮内操作との関連が強い。

≪論文紹介≫

Shunya Sugai, et al. Am J Obstet Gynecol MFM. 2023 Aug;5(8):101027. doi: 10.1016/j.ajogmf.2023.101027.

前置胎盤を伴わない病理学的に証明された癒着胎盤スペクトラムに関する臨床的特徴を評価することを目的としたシステマティックレビュー・メタアナリシスです。PubMed、Cochraneデータベース、およびWeb of Scienceの文献検索を2022年9月7日までの期間で実施しました。主要評価項目は、侵襲性胎盤(incretaまたはpercretaを含む)、分娩時異常出血、子宮摘出、分娩前の診断としました。副次評価項目として、母親年齢、生殖補助医療、帝王切開分娩既往、子宮内処置既往としました。
結果:
検索した2,598件の研究のうち5件を選択し、メタアナリシスは4件の研究で実施しました。メタアナリシスにより、前置胎盤を伴わない癒着胎盤スペクトラムは、侵襲性胎盤リスクが低く(OR 0.24;95%CI 0.16-0.37)、分娩時異常出血が少なく(平均差 -1.19L;95%CI -2. 09~-0.28L)、子宮摘出割合が少なく(OR 0.11;95%CI 0.02~0.53)、分娩前診断が困難(OR 0.13;95%CI 0.04~0.45)でした。加えて、生殖補助医療と子宮内処置既往は、前置胎盤を伴わない癒着胎盤スペクトラムの強いリスク因子でしたが、帝王切開分娩既往は、前置胎盤を伴う癒着胎盤スペクトラムの強いリスク因子でした。

≪私見≫

前置胎盤を伴わない癒着胎盤スペクトラムplacenta accreta spectrum(PAS)はより軽度であり、前置胎盤を伴う伴わない癒着胎盤スペクトラムの違いを意識することが大事だと思います。生殖補助医療治療に関わるので、妊娠紹介先にわかりやすいリスク抽出をしてバトンを渡していくことが必要ですね。

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文責:川井清考(院長)

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