ホルモン補充周期凍結融解胚移植の癒着胎盤リスク(Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2024)
癒着胎盤スペクトラム(PAS)は、分娩後、胎盤絨毛が子宮筋層に直接浸潤して胎盤が子宮壁に異常癒着したものと定義されます。
Jauniaux E. Ayres de Campos D. Int J Gynaecol Obstet. 2018; 140: 261-264
PASは、分娩後の大量出血を伴い、しばしば子宮摘出術を余儀なくされたり、時には生命を脅かす合併症と考えられています。PASリスク因子には、生殖補助医療、前置胎盤、子宮手術既往、子宮内操作既往、母体高齢、子宮腺筋症などがあります。有病率は過去40年間で約10倍に増加していて、リスク因子を詳細に調査していくことが必要です。
患者背景および生殖補助医療治療に関連するPASリスク因子を調査した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
ホルモン補充周期凍結融解胚移植では、胚盤胞移植、移植前の子宮内膜厚、2 回以上の子宮手術歴は、癒着胎盤スペクトラム(PAS)リスク因子が高くなりそうです。
≪論文紹介≫
Tomoyuki Fujita, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2024 May:296:194-199. doi: 10.1016/j.ejogrb.2024.02.040.
ホルモン補充周期凍結融解胚移植後の妊娠における患者背景・生殖補助医療治療の種類によってPASリスク因子を明らかにすることと目的としたケースコントロール研究です。
2010年から2021年に2国内3次周産期センターで妊娠24週以上に分娩した14,028名のうち、972名が生殖補助医療妊娠でした。PASはFIGO分類に基づいて診断しました。新鮮胚移植、自然排卵周期凍結融解胚移植、ドナー卵子周期、生殖補助医療治療の詳細が不明な症例は除外しました。最終的に、ホルモン補充周期凍結融解胚移植で妊娠した女性のうち、PASあり62名、PASなし340名を本研究で検討しました。多変量ロジスティック回帰モデルを症例対照比較に用い、分娩時母体年齢、経産数、子宮内膜症または子宮腺筋症、帝王切開、子宮筋腫核出術、子宮内膜ポリープ切除術または子宮内膜掻爬術の子宮手術歴、前置胎盤、移植胚のステージ、黄体ホルモン投与開始時の子宮内膜の厚さで調整しました。
結果:
PASは、2回以上の子宮手術歴(aOR 3.57;95%CI 1.60-7.97)および胚移植のステージ(胚盤胞:aOR 2.89;95%CI 1.15-7.26)と関連していました。子宮手術歴が2回未満の女性では、PASは7.0mm未満の子宮内膜厚と関連していました(aOR 5.18;95%CI 1.10-24.44)。
≪私見≫
子宮内膜に損傷を与える手術や子宮内膜の状態はPASリスクになることは間違いなさそうですね。子宮手術による子宮筋層の損傷は、筋線維の乱れ、組織の浮腫、炎症、エラストーシスによって特徴付けられ、異常な脱落膜化を引き起こす可能性があります。
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文責:川井清考(院長)
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