男性不妊の新しい分類が提唱されました!

≪研究の紹介≫

特発性の精巣機能異常に起因する性腺機能低下症または不妊症の男性患者を対象とするAPHRODITE基準

APHRODITE criteria: addressing male patients with hypogonadism and/or infertility owing to altered idiopathic testicular function.

Esteves SC, ほか. Reprod Biomed Online. 2024 Apr;48(4):103647. PMID: 38367592.

はじめに
男性の生殖機能を評価する際には、通常精液検査だけでなく性ホルモン値を確認します。精液検査だけでは男性の生殖機能を正確に評価することはできないのが問題です。この論文では、精液検査だけでなく、FSHとテストステロンの値を組み合わせて、内分泌治療をする際に役立つように男性不妊症の症例を5つのグループに分類するという試みです。"APHTODITE"と名付けられました。女性の生殖機能を評価する基準としてPOSEIDON (Patient-Oriented Strategies Encompassing IndividualizeD Oocyte Number)があり、「各患者さんに少なくとも1つ正常核型胚を移植するための必要な回収卵子数」を達成するための指標となっています。
APHRODITEは、ギリシャ神話における豊穣、性欲、子孫繁栄の女神で、女性の豊穣を司る男性神POSEIDONの対になる女神です。天空神ウラノスの去勢された性器から生まれたとされています。APHTODITEはしばしば、輝かしい子孫の創造者として描かれています。
APHRODITEは、生殖医療における女性側のPOSEIDON基準に対する男性側の基準となっています。

研究の要旨:
APHRODITE(Addressing male Patients with Hypogonadism and/or infeRtility Owing to altereD, Idiopathic TEsticular function:性腺機能低下症および/または特発性精巣機能不全を有する男性患者への対処)」という男性不妊症の新しい分類システムは、男性不妊症を異なるサブグループに層別化し、科学者が男性不妊症のホルモン治療に関する臨床試験を計画し、臨床医が男性の内分泌学的異常についてカウンセリング・治療し、最終的に自然妊娠や生殖補助医療による妊娠の可能性を高めるのに役立つか?ということを研究課題としています。

デザイン 生殖医療を専門とし、男性不妊症に精通した泌尿器科医、婦人科医が協力し、患者の臨床像を精液検査やホルモン検査などの日常診療でルーチンに用いられる検査結果に基づいて検証し、APHRODITE基準を作成しました。

結果 :
(1)低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(後天性および先天性)
(2)精液検査パラメータの低下、血清FSH正常、血清総テストステロン濃度正常の特発性男性不妊症
(3) 精液検査パラメータが低下し、FSHが正常で、総テストステロン濃度が低下している性腺機能低下状態
(4) 精液分析パラメータが低下し、FSH濃度が上昇し、総テストステロン濃度が低下または正常
(5) 精液検査所見、ホルモン値以上のない原因不明の男性不妊
の5つのカテゴリーに分けられました。

APHRODITE基準は、病因および/または精子形成の変化に依存しない男性不妊症の新しくかつ標準化された患者層別化システムであり、内分泌治療後の生殖医学的予後を改善するための臨床医、研究者および患者の間のコミュニケーションを促進するものとなります。また、APHRODITE基準は、将来の男性不妊症に対する内分泌治療の臨床試験の基礎となるものとしても提案されています。

表 5つのAPHRODITEグループの特徴


Group
分類 定義 有病率 推奨されるゴナドトロピンレジメン
1 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(後天性および先天性)
  • ゴナドトロピンの産生または作用の低下による精子形成の低下およびテストステロン産生の低下を伴う精巣機能不全
  • 施設の基準値を下回るFSHおよびLH、総テストステロン濃度および精液検査パラメータの低下(乏精子無力症奇形精子症または無精子症など)。
無精子症の(1.9%)、男性不妊症の1.6% HCG (± FSH)
2 精液検査パラメータが低下、血清FSH正常、血清総テストステロン正常
  • ゴナドトロピン作用の低下を伴う機能性精巣機能低下症
  • NOAを含む精液検査パラメータの低下
  • FSH濃度が基準範囲内、総テストステロン濃度は施設の基準値範囲内。
特発性男性不妊症:不妊評価を受ける患者の15〜60%。 FSH単独
3 精液検査パラメータ低下、FSH正常、総テストステロン濃度低下
  • ゴナドトロピンの作用低下とテストステロン産生低下を伴うNOAを含む機能性性腺機能低下症
  • 精液分析パラメータの低下、FSH濃度が基準範囲内、総テストステロンが低下(施設の基準値の下限以下)
ホルモン療法を受けている特発性男性不妊症症例の約20% FSH(±HCG)
4 精液検査パラメータの低下、FSH濃度の上昇、総テストステロン濃度が正常値または低下
  • 機能性の高ゴナドトロピン性性腺機能低下症
  • 精液分析パラメータの低下、主にNOA 。
  • 基準値上限を超えるFSH濃度、総テストステロン濃度は正常または低下(遺伝的原因を除く)
最大10% HCG (± FSH)
5 原因不明の男性不妊 FSH濃度、テストステロン濃度、精液検査パラメータがそれぞれ基準値内。 原因不明の不妊症を呈するカップルの15%、原因不明の男性不妊症は6~27% FSH単独

 

≪筆者の意見≫

精液検査所見とホルモン値を組み合わせて男性の生殖機能を分類するという試みで、日常診療でどこの医療機関でも測定できる検査値を使って分類できる簡便で便利な基準です。これまではそれぞれの検査の結果を評価していましたが、組み合わせて分類するという発想はありませんでした。ホルモン値の基準値は医療機関で採用しているもので良いとされています。精液検査はWHOの基準値を使うのですが、FSHやテストステロン値は不妊症を鑑別するような明確なカットオフ値がないので、施設で決めたものを採用するということになっています。
治療法にFSH単独療法が提案されているグループもありますが、我が国では保険適用ではありません。イタリアではFSH<8IU/LでFSHの投与が公的に認められているようです。実際にはホルモン値によりますが、グループ2や3ではクロミフェンクエン酸塩かゴナドトロピン製剤を使用するのが現実的と考えられます。
本文中でもこの研究はガイドライン的なものではないと記載されていますが、今後の診療の目安や将来治療法を開発する際の患者背景を考慮する際の基準として期待できます。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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