非閉塞性無精子症に対する組み換えhCG製剤によるホルモン刺激と精子採取成功について(その1)

≪研究の紹介≫

Clinical Factors Impacting Microdissection Testicular Sperm Extraction Success in Hypogonadal Men with Nonobstructive Azoospermia

性腺機能低下症を伴う非閉塞性無精子症における顕微鏡下精巣内精子採取術成功に影響する臨床的因子について(その1)

Esteves SC, et al. Fertil Steril. 2024 Jun 21:S0015-0282(24)00544-2. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.06.013. PMID: 38909671.
(2024年7月10日現在で掲載前の論文です)

2024年7月の初めの亀田IVFクリニックブログの男性不妊の記事で、Laursen RJ, et al. Int Braz J Urol. 2022の組換えhCG製剤投与によるマイクロTESE成績向上の試みについてご紹介しました。今回は、この治療を含む大規模な研究の結果についてです。
非閉塞性無精子症に対する精巣内精子採取術での精子採取を予測する方法はAZF以外に確立された因子はないのが実情です。AIを用いた試みについては以前のブログでご紹介しました。今回ご紹介するのは、性腺機能低下症症例で、遺伝子組換えhCG製剤でのホルモン刺激療法を行なったかどうかを含めて検討した研究です。
内容が多いので、2回に分けてご紹介します。

≪研究の要旨≫

(その1)
この研究の目的は、性腺機能低下を有する非閉塞性無精子症(NOA)の男性における顕微鏡下精巣精子採取術(micro-TESE)の成功に影響を及ぼす因子を探索するコホート研究で、大学付属の男性生殖医療センターにおいて実施されました。

対象は、2014年から2021年の間にmicro-TESEを受けた性腺機能低下症(総テストステロン[T]値<350 ng/dLと定義されています)のNOA患者616症例です。全患者に精子採取(SR)の既往はありませんでした。23~55歳の症例において、NOAの臨床所見、検査、および病理組織学的診断のデータを抽出し、さらにSR前のホルモン刺激療法#の有無に基づいて2つのコホートに分けられました。
主要評価項目は、多変量ロジスティック回帰分析により、患者背景の臨床病理学的因子とmicro-TESE成功(採取標本中の生存精子の存在と定義されました)との関連を解析しました。調整オッズ比および95%信頼区間を計算し、SR成功と関連する予測因子を評価しました。SR率はホルモン刺激療法を受けている症例と受けていない症例で比較し、ロジスティック回帰分析によりSR成功に対するFSH基礎値[すなわち、ゴナドトロピン値正常群(FSH<12 IU/L)と、ゴナドトロピン高値群(FSH≧12 IU/L)]の影響を評価しました。

#この研究でのホルモン刺激療法について
内因性T産生を高めるために、遺伝子組換えhCG(rec-hCG;choriogonadotropin alfa)が適応外で使用されました。患者はrec-hCGを80μg(一般的なhCG製剤〜2,080IUに相当)を週2回皮下に自己注射し、T値が350ng/dLから900ng/dLに維持するように調整されました。rec-hCG投与中に血清FSH値が1.5IU/L未満に低下した場合は、追加で遺伝子組換えヒトFSH(rec-FSH;follitropin alfa)も150IU週3回投与としました。rec-hCG療法中にT/E2比が10以下に低下した場合、アロマターゼ阻害剤(アナストロゾール)も適応外で1日1mg経口投与されました。治療例では、最低3ヶ月の治療が行われました。
また、ホルモン刺激療法を受けるかどうかは、患者さんの意思で決定されました。

今回はここまで、結果は次回ご紹介します。

≪筆者の意見≫

micro-TESEの治療成績を、性腺機能低下症と遺伝子組換えhCG製剤によるホルモン刺激と絡めて解析したユニークな研究です。以前ブログでもご紹介したFSHとテストステロンの値を組み合わせて、内分泌治療をする際に役立つように男性不妊症の症例を5つのグループに分類するという"APHTODITE"基準が出てきたように、最近は、テストステロンの値にも基準を設けて治療方針を決めていこうという試みがされているという流れがあるようです。精子形成においてその成熟過程における重要な要素として、生理的な精巣内T濃度(ITT)を維持することであり、これは循環血液中のT濃度よりも50~100倍高いとされています(Foresta C,et al, Hum Reprod 2004)。hCGはライディッヒ細胞のLH受容体を刺激してT産生を増加させ、FSHによるセルトリ細胞刺激との相乗効果で精子形成をさらに促進します。つまりhCG刺激は理にかなっているというわけです。
次回のブログで結果のご紹介をします。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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