体外受精は分娩第3期遷延と関係(Reprod Biomed Online 2024)

分娩第3期遷延には、分娩時異常出血(分娩開始後から分娩後2時間まで)、分娩後異常出血(胎盤娩出から産後12週まで)、癒着胎盤、胎盤遺残などのリスク増加を認めます。これらの障害は、一貫して子宮筋層への絨毛(胎盤)浸潤過剰と関連しているとされています(Suardiら, 2023、Illsleyら, 2020)。
子宮筋層への絨毛浸潤過剰は体外受精治療との関連が指摘されています。この観点から、体外受精は分娩第3期遷延と関係するかどうかを調査した報告をご紹介します。

≪ポイント≫

体外受精(特にホルモン補充周期凍結融解胚移植、胚盤胞期胚移植)は、分娩第3期遷延のリスク因子となり得ます。

≪論文紹介≫

Akihito Kato, et al. Reprod Biomed Online 2024. doi: 10.1016/j.rbmo.2024.104382

多施設臨床データを用いて、分娩後異常出血と関連する分娩第3期遷延リスク因子を調査し、生殖補助医療(ART)が分娩第3期に及ぼす影響を評価しましたレトロスペクティブ研究です。
2012年から2018年に日本12周産期施設にて経腟分娩した女性25,336名の臨床データを使用しました。そのうち1,148名(4.5%)および2,246名(8.9%)は,それぞれART不妊治療および非ART不妊治療によって妊娠した女性でした。単変量回帰分析および多変量回帰分析を行い、分娩第3期遷延(20分以上と定義)のリスク因子を評価した。そして、自然妊娠を基準として、ART種類によって層別化した分娩第3期遷延の調整オッズ比(aOR)を評価しました。
結果:
多変量解析の結果、ART妊娠(aOR 4.38, 95%CI 3.12-6.15])、中絶歴(aOR 1.40, 95%CI 1.06-1.84)、分娩所要時間遷延(1.52[1.09-2.12])が独立したリスク因子として同定されました。ART種類では、凍結融解胚移植、ホルモン補充周期凍結融解胚移植、胚盤胞期胚移植が分娩第3期遷延と関連していました(それぞれaOR 4.07, 95%CI 2.75-6.04、aOR 4.11, 95%CI 2.58-6.57、aOR 2.13, 95%CI 1.15-3.95)。自然妊娠と非ART不妊治療との間で、分娩第3期持続期間に差は認められませんでした(p = 0.61)。

≪私見≫

筋層浸潤が強いほど、「分娩第3期遷延」→「固着(付着)胎盤」→「癒着胎盤」と進みます。体外受精が癒着胎盤リスク上昇と関連するのであれば、分娩第3期遷延と関連するのは納得の結果です。このメカニズムが今まで妊娠高血圧症候群で触れられている黄体欠如なのか他のメカニズムなのかは今後の課題かなと感じています。

日本では正常分娩第3期は初産婦で15~30分、多産婦で10~20分とされ、分娩第3期遷延は30分以上と定義されてきていますが、今回の研究では99パーセンタイルの20分を基準としています。

分娩第3期遷延と体外受精は関係ないという先行論文はありますが、分娩第3期合併症の増加を認めていたり、やはり何らかの体外受精と分娩第3期異常を関連付ける結果かなと感じています。
・Aziz, M. M.,et al. Arch Gynecol Obstet. 2016; 293: 1193-1196.
第3期遷延、分娩後出血、胎盤遺残と関係なかったが、用手胎盤遺残剥離とは一部のサブグループで一致
・Wertheimer, A.,et al. J Matern Fetal Neonatal Med. 2022; 35: 663-667.
第3期遷延とは関係なかったが、分娩後出血、用手胎盤遺残剥離、輸血が体外受精妊娠で増加

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文責:川井清考(院長)

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