妊婦VTE予防のヘパリン用量は固定でよい?(Obstet Gynecol. 2024)

妊娠による生理学的変化は、未分画ヘパリンの体内動態を変化させる可能性があり、その結果、妊娠時にはより高用量の投与が必要となる可能性があります。妊娠中のヘパリンの薬物動態および薬力学に関するデータは限られており、血栓予防薬の予防的投与に対する凝固パラメーターの期待される反応については十分に説明されていません。
先行研究では、妊娠患者では血漿中ヘパリン濃度のピーク値が低く、APTTおよび抗Xa値が低いことが示されており、ヘパリン必要量が増加する可能性が高いことが示唆されています。長期入院予定する妊婦に対して、妊娠週数に基づいた未分画ヘパリン投与と標準的な未分画ヘパリン投与後の凝固パラメータを評価した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

妊娠週数に基づいて未分画ヘパリン投与を増量すると、異常APTT高値の割合は上昇します。静脈血栓塞栓症予防に、APTTをもって調整すべきかどうかは結論がでていません。

≪論文紹介≫

Thalia Mok, et al. Obstet Gynecol. 2024 Jul 1;144(1):118-125. doi: 10.1097/AOG.0000000000005599.

分娩前長期入院中の血清活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)上昇に対する、血栓予防のための標準的な未分画ヘパリン投与群と、妊娠週数に基づいた未分画ヘパリン投与群の効果を評価することを目的とした72時間以上入院となった妊婦に対するランダム化比較試験です。標準用量の未分画ヘパリン(5,000単位を12時間ごとに皮下投与)または妊娠週数に応じた用量の未分画ヘパリン(妊娠14週未満:5,000単位を12時間ごとに皮下投与、妊娠14~27週:7,500単位を12時間ごとに皮下投与、妊娠28週以降:10,000単位を12時間ごとに皮下投与)。主要評価項目は、未分画ヘパリン投与6時間後に血清APTT値が正常範囲を超えて上昇(36.2秒以上)した患者割合、副次評価項目は静脈血栓塞栓症(VTE)発症とヘパリン投与による副作用報告としました。
結果:
2020年12月15日から2022年4月1日に、分娩前入院患者97名がスクリーニングし、46名が無作為(22名:標準用量、24名:妊娠週数に基づいた調整用量)に割り付けました。妊娠週数に基づいた投与が行われた分娩前患者のAPTT異常上昇の割合は、標準投与患者と比較して有意に高くなりました(33.3% vs. 4.8%、P=.02)。妊娠週数に基づく投与では、APTTの最大値[四分位範囲](30.4[27.4、37.5] vs. 26.6[23.0、29.6]、P=.01)および抗Xa値(0.09[0.09、0.11] vs. 0.09[0.09、0.09]、P=.04)が高くなりました。VTEには群間で差がなく、ヘパリンの合併症はいませんでした。

≪私見≫

VTE予防のために、そのほか未分画ヘパリンが必要な妊婦に対して標準用量投与がよいか、妊娠週数に基づいた調整がよいか、APTTに基づいた調整がよいか結論はでていません。
産科的抗リン脂質抗体症候群のリスクにあった治療方法として、血栓既往や難治性症例に関しては、治療的用量10000単位/日ではなく、 12000〜20000単位/日を考慮されうるとされています。ただし、ヘパリン増量については,血栓予防に有効と考えられるが、妊娠予後を改善するかについてのエビデンスはないと説明を行っています。

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文責:川井清考(院長)

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