子宮腔内癒着剥離術後の妊活結果を左右する因子(Fertil Steril. 2024)

子宮腔内癒着剥離術後に妊娠に対する予後因子は過去に二つの比較的大きなレトロスペクティブ研究が行われています。
 ①Hanstedeらの報告では、500名女性を2〜7年間追跡調査(ART治療含む)。 年齢が若い、子宮内癒着程度が軽い、妊娠初期流産処置のための子宮腔内癒着、術後流産がない女性ほど、術後出産に至る可能性が高い。
 ②Zhaoらの報告は、308名女性を2-3年間追跡調査(妊娠方法記載なし)。
子宮内癒着の重症度、年齢、月経量の改善、子宮鏡下癒着剥離手術既往が、術後出産に影響を与える。
 A. MMFH, et al. Fertil Steril, 116 (2021), pp. 1181-1187
 X. Zhao, et al. Ann Transl Med, 8 (2020), p. 49
今回、タイミング妊娠に限定して子宮腔内癒着剥離術後に妊娠に対する予後因子を調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

子宮鏡下子宮腔内癒着剥離術後の自己妊活成功の因子は、月経量が回復したこと、黄体中期内膜厚が回復したこと、術後癒着がほぼ見られないこと、でした。

≪論文紹介≫

Yuting Zhao, et al. Fertil Steril. 2024 May;121(5):873-880. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.01.022.

子宮鏡下子宮腔内癒着剥離術後の生児出生に影響を及ぼす因子を評価することを目的とした中国で行われたレトロスペクティブコホート研究です。
2020年6月から2022年2月にアッシャーマン症候群と診断された患者に対して、子宮鏡下子宮腔内癒着剥離術後にセカンドルック子宮鏡検査を実施した後、1年間フォローとしました。主要評価項目は12ヵ月後の生殖補助医療を使用しない場合の生児出生率としました。

結果:
544名の女性のうち、1年間の追跡調査終了時の妊娠率は47.6%(95%CI 45.5%-49.7%)、生児出生率は41.0%(95%CI 38.9%-43.1%)でした。ステップワイズ多重ロジスティック回帰分析により、出生率の独立した予測因子が同定されました:予測因子が高い順番に、術後月経量の増加(OR 3.69、95%CI 1.77-8.21)、術後黄体期中期の子宮内膜厚(OR 1.53、95%CI 1.31-1.80)、セカンドルック子宮鏡検査での癒着再発の重症度(OR 0.62、95%CI 0.50-0.76)。術後月経量の増加、術後黄体期中期の子宮内膜厚6mm以上、セカンドルック子宮鏡時の癒着の再発がない、または軽微であった女性では、生児出生率は69.0%(95%CI 65.4%-72.6%)でした。一方、3つの予後良好因子のいずれもがなかった女性 26名では、生児出生症例がいませんでした。

≪私見≫

今回の子宮腔内癒着剥離術後のフォローアップは以下のようになっています。
術後、フォーリーカテーテルを子宮腔に挿入し、2.5-3mLの滅菌生理食塩水を満たした後、中等度から重度の子宮腔内癒着を有した患者には、2.5mLヒアルロン酸ゲルを子宮腔内に塗布。カテーテルは術後5~7日間留置。全例にカウフマン療法を3ヵ月間実施。術後3-4週目にセカンドルック子宮鏡検査。

過去のブログも参考にしてください。
子宮腔内癒着予防にヒアルロン酸ゲル(Am J Obstet Gynecol. 2024)
子宮腔内癒着剥離術後のエストロゲン補充療法は?(Reprod Med Biol. 2023)
アッシャーマン症候群術後の内膜が薄い症例にはG-CSF(論文紹介)

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文責:川井清考(院長)

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