注射を打った量は正常胚率に関係ない?(J Assist Reprod Genet. 2024)

複数卵胞発育を促すために外因性ゴナドトロピン製剤を投与すると、減数分裂紡錘体の適切な整列の調節が悪化する可能性があると指摘する研究者がいます。初期の動物実験では、ゴナドトロピン刺激と胚異数性との関連を支持するものがいくつかありますが、ヒトでは結論はでていません。卵巣刺激の最適化の上では、ゴナドトロピン投与がどの程度、胚盤胞到達率や正常核型割合に影響を与えるか調査する必要があります。過去にも同様の報告は複数出ていますが、その中の一本をご紹介いたします。

≪ポイント≫

全PGT周期において、女性年齢の高齢化、およびPGT-SRを行った症例は、胚盤胞到達率および正常核型胚盤胞率に悪影響を及ぼしましたが、総ゴナドトロピン量は胚盤胞到達率および正常核型胚盤胞率に影響を及ぼしませんでした。

≪論文紹介≫

Jun Shuai, et al. J Assist Reprod Genet. 2024 Jul 13. doi: 10.1007/s10815-024-03183-w.

ゴナドトロピン総投与量の増加が、着床前診断による正常核型胚盤胞率と関連するかどうかを評価することを目的とした2017年から2022年に実施されたレトロスペクティブコホート研究です。単一生殖医療施設で実施され、19,246個卵子が総ゴナドトロピン投与量の三分位群(Group 1: ≤ 1562.5 IU; Group 2: 1562.6–2175 IU; Group 3: > 2175 IU)に基づいてグループ化され、分析されました。主要評価項目は胚盤胞到達率および正常核型胚盤胞率としました。
結果:
計19,246個卵子由来の5,375個のPGT胚盤胞を解析しました。ゴナドトロピン総投与量の三分位数によって分類された群間で、胚盤胞到達率および正常核型胚盤胞率に有意差が認められた。年齢、BMI、原発性不妊症、AMH、回収卵子数、卵巣刺激方法、ゴナドトロピン種類、およびPGTカテゴリーにおいて、3群間で有意差が認められました。多重ロジスティック回帰分析の結果、3つのゴナドトロピン群に分けた場合でも、胚盤胞到達率および正常核型胚盤胞率は差を認めませんでした。女性年齢高齢化とPGT-SRが胚盤胞形成率および倍数体胚盤胞率のリスク因子であったことです。

≪私見≫

症例ごとに卵巣刺激が合う合わないがあるのだと思っていますが、他の報告は以下のようになっています。大前提 初回は卵巣刺激 胚発生が不良な場合は低刺激に移行というのが選択肢かと感じています。

低刺激の方が正常核型胚率が良いという報告
 Baart E, et al. Human Reproduction. 2007;22(4):980–8.
自然周期でも意外と正常核型胚率が低いという報告
 Verpoest W, et al. Human Reproduction. 2008;23(10):2369–71.
卵巣刺激が正常核型胚率に影響を与えないという報告
  Wu Q, et al. Human Reproduction. 2018;33(10):1875–82.
 Sekhon L, et al. J Assist Reprod Genet. 2017;34(6):749–58.
 Liu Y, et al. Front Endocrinol. 2022;13:1080843.

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文責:川井清考(院長)

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