胚盤胞グレードが周産期予後に影響を与える?(Hum Reprod. 2023)
胚盤胞でグレードが低い胚ができたときの解釈は非常に難しいです。
グレードが低いとしても、胚盤胞に辿り着かず淘汰された胚よりは出生の可能性があるわけです。ただ、患者様の心情としてグレードが低い胚を戻すことが、様々なリスク(障害、周産期予後、流産)を引き起こすのではないかと不安になるものわからないわけではありません。胚盤胞グレードが低くても単一胚盤胞移植した場合の周産期予後・出生率を示した報告をご紹介します。
≪ポイント≫
胚盤胞グレードが低い胚を移植した場合、良好グレードを戻した場合より出生率は30%程度低下しますが、周産期予後は悪化しませんでした。
≪論文≫
Haowen Zou, et al. Hum Reprod. 2023 Dec 4;38(12):2391-2399. doi: 10.1093/humrep/dead212.
オーストラリア、中国、ニュージーランドの14のクリニックで、2009年から2020年に単一胚盤胞移植を受けた10,018名10,964周期を対象に行った多施設多国籍レトロスペクティブコホート研究です。
胚盤胞は、内細胞塊(ICM)および外胚葉(TE)の形態と発育の評価に基づいて個々に等級付けされ、3つの品質カテゴリーに分類された:良好グレード(AB、AB、またはBA)、中グレード(BB)、低グレード(ICMまたはTEのグレードC)胚盤胞。CC胚盤胞は個別に超低グレードとしてグループ分けしました。一般化推定式を用いたロジスティック回帰を用いて、胚盤胞グレードと出生および周産期予後との関連を解析しました。
結果:
胚盤胞は良好グレード4,386個、中グレード3,735個、低グレード2,843個が解析に含まれ、それぞれの出生率は44.4%、38.6%、30.2%でした。良好グレードと比較して、低グレードの出生率は低くなりました(aOR 0.48, 0.41-0.55)。超低グレードはさらに低い出生率となり(aOR 0.30, 0.18-0.52)、出生率は13.7%でした。周産期予後の解析には4132単胎分娩を解析し、良好グレードと比較して、低グレードは早産率(37週未満、aOR 1.00, 0.65-1.54)、出生体重Zスコア(調整回帰係数0.02, 0.09-0.14)、超低出生体重児(1500g未満、aOR 0.84, 0.22-3.25)、低出生体重児(1500-2500g、aOR 0.96, 0.56-1.65)、高出生体重児(>4500g、aOR 0.93, 0.37-2.32)、SGA児(aOR 1.63, 0.91-2.93)、LGA児(aOR 1.28, 0.97-1.70)でした。
≪私見≫
今回の報告では、女性平均年齢33歳前後の解析です。胚盤胞グレードは少なくとも出生児の体重との関連はなさそうということがわかりますね。また、胚盤胞グレードの低い胚をどのように戻すか、ここは患者様と医療者の間で話し合って決めていく大事な部分だと思います。この報告のデータを参考に話すときに「CC胚盤胞は良好胚盤胞に比べて出生率が3割程度しかない」と話すのと、「CC胚盤胞でも出生率は13.7%もある」と話すのとでは大きく変わってきます。
もう一つ面白いデータとして、単一胚盤胞移植の双胎率が0.6%(68/10,964)あることも示されています。
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文責:川井清考(院長)
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