胚盤胞グレードで胎盤病理が変わる?(レトロスペクティブコホート2023)

質の低い胚盤胞を移植したときに妊娠率や生児獲得率は低下するとされていますが、妊娠継続できた場合には周産期予後は変わらないとされています。胚のグレードが胎盤所見に影響を与えるか調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

poor-quality胚で妊娠継続・分娩に至った場合、低置胎盤リスクが高いこと、そのほかの有害な胎盤所見が複数見られることがわかりました。しかし、周産期予後に影響を与えるほどではないため、周産期管理をしっかりおこなっていくことが重要であることがわかりました。

≪論文紹介≫

Hadas Ganer Herman, et al.  Hum Reprod. 2023 Mar 9;dead045.  doi: 10.1093/humrep/dead045.

2009年から2017年に体外受精(単一胚盤胞移植)妊娠分娩641例を対象にレトロスペクティブコホート研究を実施しました。
主要評価項目は、アムステルダム胎盤ワークショップグループコンセンサスに従って解剖学的所見、炎症性、血管不全、絨毛成熟病変を含む胎盤所見を分類いたしました。副次評価項目として、卵巣予備能低下、新鮮胚移植と凍結融解胚移植、新生児の性別で調整した周産期予後としました。
結果:
poor-qualityグループ132件の分娩を、good-qualityグループ509件と比較しました。卵巣予備能低下は、good-qualityグループよりもpoor-qualityグループで多く(14.3% vs. 5.5%、P < 0.001)、poor-qualityグループでは凍結胚移植後の妊娠がより多くなりました。交絡因子の調整後,poor-qualityグループは,低置胎盤(aOR 2.35,95%CI 1.02-5.41,P = 0.04),原因不明の絨毛炎(aOR 2.97,95% CI 1.17-6.66,P = 0.002)、遠位絨毛低形成(aOR 3.78, 95% CI 1.20-11.38, P = 0.02)、絨毛間血栓(aOR 2.41, 95% CI 1.39-4.16, P = 0.001 )、複数の母体側虚血病変(aOR 1.59, 95% CI 1.06-2.37, P = 0.02 )、石灰化(aOR 2.19, 95% CI 1.07-4.46, P = 0.03 )が増加していました。

≪私見≫

以前にもARTでは胎盤所見が変わるという報告をブログで取り上げています。
体外受精を行うと胎盤病理はどう変化する?(論文紹介)

poor-quality胚で妊娠継続・分娩に至った場合に胎盤病変に異常があることは、着床し絨毛・胎盤形成時期の免疫学的反応がgood-quality胚とは異なっている可能性を意味します。絨毛・胎盤所見について、しっかり評価していくことを重要だと考えています。
どうでもいい話ですが、まだ私が専攻を不妊・生殖に決める前に「体外受精における胎盤・臍帯異常の検討」について2011年関東連合産科婦人科学会誌に発表したことを思い出しました。
13年経って、生殖医療分野に従事しているなんて、その時は全く考えていませんでしたので世の中何がおこるかわからないものです。

文責:川井清考(院長)

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