人工授精は精液採取からの時間が長くてもよい?(RCT2023)

精液採取から人工授精までの間隔が長い(180分以上)と、短い(90分以下)より、人工授精6周期後の累積妊娠継続率が上昇するかどうかを検討した報告をご紹介します。

≪ポイント≫

精液採取から人工授精までの間隔が長さ(90分以内、180分以上)により累積妊娠継続率は当RCTでは長い間隔の方がITT解析では良い結果になりましたが、PP解析では差がついていません。この程度の期間であれば人工授精成績に影響を与えない可能性が高そうです。

≪論文紹介≫

C H Statema-Lohmeijer, et al.  Hum Reprod. 2023 Mar 9;dead044.  doi: 10.1093/humrep/dead044. 

自然周期または刺激周期で人工授精を実施する297組のカップルを対象に、非盲検の単施設RCTとして2012年2月から2018年12月に実施しました。
原因不明または軽度の男性不妊症で人工授精の適応があるカップルを、調整長時間間隔群(精液採取から人工授精まで180分以上)、調整短時間間隔群(精液採取から人工授精まで90分以内)のいずれかに最大6回の人工授精周期を無作為抽出しました。評価項目は人工授精10週後の妊娠継続率としました。
結果:
短時間投与群142組、長時間投与群138組が解析しました。ITT解析では、累積妊娠継続率は、長時間投与群(71/138、51.4%)が短時間投与群(56/142、39.4%)に比べて高くなりました。(RR 0.77; 95% CI 0.59-0.99; P = 0.044)。妊娠までの期間は長時間投与群で短くなりました(ログランク検定、P = 0.012)。Cox回帰分析でも同様の結果が得られました(aHR 1.528、95% CI 1.074-2.174、P=0.019)。多胎妊娠と流産は両群間で差がありませんでした。

≪私見≫

レトロスペクティブ研究では、精液採取から人工授精までの間隔の長さに差がない報告、精液採取から人工授精までの間隔が長いことは成績低下につながる報告のいずれかでした。今回は、精液採取から人工授精までの間隔が長いことは成績向上につながるという異なった結果となりました。この論文をよくよく見てみると、ITT解析では差がついているものの、PP解析では差がついていません。これは精液採取から人工授精までの間隔が長い群がたまたま自然妊娠してしまっているカップルが多くいたことが理由です。私個人としては、これまでの結果もふまえて、精液採取から人工授精までの間隔は、それほど人工授精成績に影響を与えないと考えています。

●精液採取から人工授精までの間隔の長さに差がない
Song GJ, et al. Fertil Steril 2007;6:1689–1691.
Jansen C, et al. Fertil Steril 2017;5:764–769.
●精液採取から人工授精までの間隔が長いことは成績低下につながる
Yavas Y, et al. Fertil Steril 2004;6:1638–1647.
Fauque P, et al. Fertil Steril 2014;6:1618–1623.e1611–1613.
Kuru Pekcan M. J Gynecol Obstet Hum Reprod 2018;10:561–564.
Punjabi U, et al. J Assist Reprod Genet 2021;2:421–428.

文責:川井清考(院長)

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