血中TSH軽度上昇は体外受精成績に影響を与えない。( J Assist Reprod Genet. 2024)

血中TSHは、妊娠中の甲状腺機能障害を評価するのに一般的に用いられています。
米国甲状腺協会(ATA)と米国産科婦人科学会は0.1~4.0mIU/L基準範囲を推奨していますが、妊娠初期TSHの上限を2.5mIU/Lとしている報告も少なくなりません。最近の報告では血中TSH 2.5mIU/Lでの介入が奏功したというものが1報(Xia J, et al. Gynecol Endocrinol. 2022;38:651–5.)ありますが、17報告を含むメタアナリシスではTSH軽度上昇は不妊治療成績に関連しないと結論づけています(d’Assunção VRN, et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2022;13:1023635.)。
今回、中国からのレトロスペクティブ研究ですが、若年女性の血中TSH軽度上昇が体外受精成績に影響を与えるか調査した報告をご紹介します。

≪ポイント≫

甲状腺正常不妊患者における妊娠前TSH値の軽度上昇は、初回体外受精・顕微授精治療の妊娠転帰に影響を及ぼしません。

≪論文紹介≫

Mingmei Lin, et al. J Assist Reprod Genet. 2024 Feb 26. doi: 10.1007/s10815-023-03014-4.

初回新鮮胚移植を行った女性における血中TSH値の軽度上昇とIVF・ICSI治療の妊娠転帰との関連を調べることを目的としました。
2018年1月から2022年12月までの15,728症例の大規模単一施設レトロスペクティブコホート研究です。TSH値<2.5mIU/L群(N=10,932)とTSH値≧2.5mIU/L群(N=4796)で臨床妊娠率、生児出生率、流産率、子宮外妊娠率を比較しました。TSH値2.5mIU/L以上の患者については、TPO陰性群(N = 4524)とTPO陽性群(N = 272)に分けてサブグループ解析を行いました。
結果:
TSH値<2.5mIU/L群とTSH値≧2.5mIU/L群に差は認められませんでした。TPO陰性群とTPO陽性群の妊娠転帰にも差は認められませんでした。
甲状腺結果は採卵3ヶ月以内に測定したものとしています。
リファレンス(2.5%-97.5%)は fT4 0.89–1.80 ug/dL TSH 0.55–4.78 uIU/mLでした。

≪私見≫

このグループは連続変数としてTSH値と妊娠転帰との関係をRCS分析にて解析しています。有意差はついていませんがTSH 3台中盤くらいから、流産率の上昇にて出生率が低下していく関係を捉えています(Fig2)。今回のデータは初回採卵新鮮胚移植のデータですので、甲状腺正常不妊患者における妊娠前TSH値の軽度上昇群には説明が必要なのだと思います。

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文責:川井清考(院長)

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