射精の間隔は短い方が良い?

≪研究紹介≫

精子の機能にとっては射精の間隔は、4日間よりも1日の方が良い
One day is better than four days of ejaculatory abstinence for sperm function.

Okada FK, Andretta RR, Spaine DM. Reprod Fertil. 2020 Oct 9;1(1):1-10. PMID: 35128419.

はじめに
禁欲期間、つまり射精の間隔はどのくらいが良いのか、これはなかなか難しい問題です。WHOは禁欲期間2-7日間の検査データを収集して、精液検査所見の下限基準値を示しています。そのため、2-7日間がよいとされる場合が多いと思いますが、実際はどうなのか患者さんの状況によってかわってくるかもしれません。禁欲期間が長くなると精子運動率が下がったり、精子DNA断片化率が悪化したりする傾向にあることなどもあり、当院では2-3日でお願いしています。
今回ご紹介する研究は、もっと短い1日にするとどうかということを検討しています。

≪研究の要旨≫

本研究の目的は、同じ男性で1日と4日間の二つの禁欲期間で精液検査を受けてもらった場合、精液の質がどのような影響を受けるかを明らかにすることとなっています。
65人の男性の精液検体を、1日および4日間の禁欲期間で採取し(同一の症例から2回の精液検体採取)、通常の精液検査および精子機能検査で評価しました。精液は、酸化活性、精子機能(先体部完全性、ミトコンドリア活性、核DNA完全性)の評価をしました。
結果、禁欲1日後に採取された精液検体では、精液4日後に採取された精液検体と比較して、精液量と総精子数が減少しました。禁欲1日後に採取された精子の運動性は、禁欲4日後に採取された精子よりも良好でした。
酸化活性(酸化ストレス)の測定値は、禁欲4日後に比べて禁欲1日後の方が低い結果となっていました(低い方がよいとされています)。その他の精子機能に関して、禁欲1日後に採取された精子は、禁欲4日後に採取された精子と比較して、先体部の完全性、ミトコンドリア活性、核DNAの完全性はより良好でした。
結論としては、禁欲4日後に採取された精液では精子量は多かったのですが、禁欲1日後に採取された精液では運動性、酸化活性、精子機能などの精子の質を示す指標はより良好な結果を示していました。射精前に精子が精巣上体で長くとどまっていることにより、精子が酸化的損傷を受けやすくなると考えることができます。

表 禁欲1日と4日間の精液所見の比較(結果の抜粋)

  禁欲1日  (n = 50) 禁欲4 日 (n = 50) P
  平均±標準偏差(95%信頼区間)
液化時間 (分) 29.1 ± 12.5 (25.6; 32.5) 29.5 ± 12.2 (26.1; 32.9) 0.866
精液量 (mL) 2.8 ± 1.2 (2.5; 3.2) 3.7 ± 1.6 (3.2; 4.1) <0.001*
精子運動率 60.5 ± 12.3 (57.1; 64.0) 57.5 ± 11.9 (54.2; 60.8) 0.026*
精子前進運動率(%) 55.1 ± 12.3 (51.7; 58.5) 52.0 ± 12.1 (48.6; 55.3) 0.025*
  中央値(第1四分位-第3四分位)
精子濃度 (×106/mL) 53.4(20.4–77.7) 45.2 (19.6–96.1) 0.337
総精子数 (×106) 120.1 (39.7–207.7) 147.5 (74.6 –314.8) <0.001*
精子正常形態率 (%) 6.0 (5.0–7.0) 5.0 (4.0–7.0) 0.395
精液の酸化活性
(酸化ストレス)
6.9 (5.4–8.5) 7.6 (6.7–9.1) 0.001*
DNA integrity (%) $      
 Comet grade I 43.5 (24.7–52.7) 29.5 (16.5–40.7) <0.001*
 Comet grade II 44.5 (32.0–59.1) 60.0 (40.0–69.0) 0.005*
 Comet grade III 8.0 (4.2–11.0) 8.5 (5.0–12.0) 0.484
 Comet grade IV 3.0 (1.0–6.7) 5.0 (3.0–8.9) 0.008*

MDA/lipid peroxidation – TBARS nmol/mL. MDA, malondialdehyde; TBARS, thiobarbituric acid reactive substances.
$ Comet assayのgradeはIがもっとも精子DNAの質が良いこと、精子DNA損傷が少ないことを示しています。gradeが高いほど悪い結果となります。

≪筆者の意見≫

この検討は、精子数がとても少ない方とか、生活習慣が乱れている方(アルコールや喫煙のある方)、併存症のある方、高度肥満の方などは除外されていて比較的精液所見が良い方を対象としています。精子DNA損傷(DNA integrity)をアルカリコメットアッセイ(Comet)という手間のかかる方法で測定しています。そのような場合の結果ということですが、多くの方の予想通り、禁欲期間が短い場合の方が、精子の質や精液の質は良好という結果でした。ただし、4日間は有意に所見が悪かったと言っても大きな差があるとも言えません。一方、日常診療では1日の禁欲だと精子数が足りなくなってしまうことも少なくありません。この研究結果をもって最適な禁欲期間を決めることはできませんが、これまで通り禁欲期間2−3日で検査していただくのは妥当ではないかと思われました。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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