仕事上弱い立場は妊孕性に影響を与える(Fertil Steril. 2024)
仕事上弱い立場(low job control)は、職業ストレスの原因となることがわかっています。Job controlは自身で仕事を進められる権限(decision authority)、仕事を自分の技量で行い切れるかどうか(skill discretion)によります。low job controlは短命、心血管系疾患、高血圧などとの関連が報告されています。メカニズムとして生物学的には免疫・炎症マーカーの調節異常、行動学的には対処関連反応(アルコール消費、睡眠など)が考えられています。
仕事特有のストレスや心理社会的労働条件が、直接妊孕性に影響を与えるかどうかを調査した報告がありませんでした。PRESTO研究を用いて調査した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
仕事に対するコントロールの低さは妊孕性に影響を与えそうです。
≪論文紹介≫
Erika L Sabbath, et al. Fertil Steril. 2024 Mar;121(3):497-505. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.11.022.
米国とカナダで妊娠を希望するカップルのインターネットベースの妊娠前コホート研究であるPregnancy Study Onlineデータを使用しました。参加者は21~45歳で、登録時(2018~2022年)に妊活周期6周期未満で妊娠していないカップルを対象としました。ベースラインの自己申告職業と業種を、国立労働安全衛生研究所の産業・職業コンピュータ化コーディングシステムの標準化職業コードと照合し、コードを仕事の独立性と意思決定の自由に関するO*NET職業曝露スコアにリンクさせることで、職業統制を評価しました
評価項目は妊孕性としました。ベースライン時および8週間ごとに、最長12ヵ月間、または妊娠が報告されるまでのいずれか早いほうの期間、質問票に記入しました。
結果:
3,110名において、仕事の自立度が低いほど妊孕性は低下しました。最も仕事の自立度が高い第4四分位群(最高)と比較して、第1四分位群(最低)、第2四分位群、第3四分位群の妊孕性(95%CI)は、それぞれ0.92(0.82-1.04)、0.84(0.74-0.95)、0.99(0.88、1.11)でした。意思決定の自由度の低さは、妊孕性のわずかな低下と関連していました(第1四分位群 vs. 第4四分位群:妊孕性 0.92;95% CI:0.80-1.05)。
≪私見≫
職業暴露も問題です。プレコンセプション期の鉛、農薬、抗悪性腫瘍剤への曝露は、妊娠までの期間が延長するとされています。重い荷物を持ち上げること、夜勤、長時間労働については、一貫したデータは得られていません。
一般的な生活ストレスは、自己報告やバイオマーカーを用いて測定された前向きコホート研究において妊娠までの期間が延長するとされています。
Wesselink AK, et al. Am J Epidemiol 2018;187:2662–71.
Lynch CD, et al. Hum Reprod 2014; 29:1067–75.
企業が成立するためには、一定の規律は必要です。ただし、健康面も含めてjob controlを意識した就労環境作りが必要なんだと感じています。
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文責:川井清考(院長)
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