甲状腺機能亢進・低下症は月経異常をおこすの?(論文紹介)
甲状腺疾患があると月経異常を起こすとネットでは記載をされていて、軽度の甲状腺異常を伴った患者様から「治療すると月経異常が治りますか?」という質問を受けることがあります。軽症の甲状腺疾患の場合は月経異常とほぼ無関係と説明していますが、根拠となる国内からの報告をご紹介させていただきます。
≪論文紹介≫
Kakuno Y, et al. Endocr J. 2010. DOI: 10.1507/endocrj.k10e-216
バセドウ病による甲状腺機能亢進症 586名、甲状腺機能低下症 111名、慢性甲状腺炎 558名、無痛性甲状腺炎 202名、甲状腺腫瘍 595名の20〜45歳の未治療女性患者を対象に、過去6ヶ月の続発性無月経、過少月経、過多月経、月経不順などの有病率を前向きに検討しました。
患者全体では、105人の健常対照者と有病率は変わりませんでした。重度の甲状腺機能亢進症の患者は、軽度または中等度の甲状腺機能亢進症の患者(それぞれ0.2%と0.9%)に比べて、続発性無月経(2.5%)と稀発月経 (3.7%)の有病率が高くなりました。重度の甲状腺機能低下症の患者は、軽度〜中等度の患者(10.2%)よりも月経障害の有病率が高くなりました(34.8%)。甲状腺機能障害における月経障害は、これまで考えられていたよりも頻度が低いことがわかりました。
甲状腺機能亢進症は、血清free T4が4 pg/mL、free T3が30 pg/mL、甲状腺機能低下症は血清TSHが100μIU/mLとカットオフ値として重症度を分類しています。
≪私見≫
甲状腺機能障害は月経異常との関連が高いと考えられてきましたが、月経障害(続発性無月経、月経過多、月経不順など)の有病率は、健常者と変わりませんでした。バセドウ病による甲状腺機能亢進症の最初の月経不順との報告は1840年にvon Basedowらが報告した二次性無月経、甲状腺機能低下症では1952年のGoldsmithらの報告になります。甲状腺疾患と月経異常を積極的に検討されていたのは1950-70年ごろであり、検査技術などの問題から様々な臨床症状を呈した今より重度の患者を対象にしていたと思われます。G E Krassasは1990年中頃より過去の報告より甲状腺疾患は月経異常を起こさないよと報告を始めて、それが現在の通念になっています。(G E Krassas. Fertil Steril. 2000. Meta-analysis)
薬の副作用でもそうですが、起こりうることを箇条書きにされていると、あたかも今起こっている問題が見つかってきた原因で一元的に解決できると考えてしまいがちです。俯瞰的な視野をもち悩んでいる患者の問題点を解決していく必要があるんだと思います。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。