妊娠高血圧症候群予防の低用量アスピリン療法に就寝前内服を勧める理由(論文紹介)
妊娠高血圧症候群の予防として低用量アスピリン投与は一般的に行われてきています。低用量アスピリン内服時間は就寝前を推奨していますが、飲み忘れが一番よくないという記載があることから、体外受精治療でたくさん薬を使用している患者様に推奨するのに本当に就寝前でないといけないのか?というのが、ずっと疑問にあります。亀田総合病院の産婦人科 末光先生に過去の文献を探していただき、周産期分野で低用量アスピリン療法を就寝前に勧める理由の根拠となる報告を見つけましたのでご紹介させていただきます。
≪論文紹介≫
Diana E Ayala, et al. Chronobiol Int. 2013. DOI: 10.3109/07420528.2012.717455
女性年齢が30.7±5.3歳,妊娠週数が13.5±1.4週のハイリスク妊婦350人(未産婦 183人)を対象に,前向き無作為化二重盲検プラセボ対照試験を実施しました。
プラセボ群または低用量アスピリン100mg/日と治療時間(起床時、起床後8時間、就寝時)によって、6つのグループのいずれかに無作為に割り付けられました。介入は、妊娠12~16週に開始し、出産まで続けました。血圧は、ベースライン時、妊娠7カ月までは4週間ごと、その後は出産まで2週間ごと、および産褥時に外来モニタリングにより測定しました。
結果:
起床時に低用量アスピリンを摂取した場合には、プラセボ群と比較して血圧に対する効果は見られませんでしたが、起床後8時間や就寝時に内服した場合、統計的に有意な血圧低下が見られました(p < 0.001)。内服中止から6〜8週間後の産褥期には、低用量アスピリンの内服時間の差での血圧に有意な差は見られませんでした。
低用量アスピリンを内服した女性は、プラセボ群と比較して、妊娠高血圧症候群、早産、子宮内胎児発育遅延、死産をなどの有害事象が有意に低くなりました(HR 0.35、95%CI:0.22-0.56、p<.001)。低用量アスピリンを夕方または就寝時に摂取した女性よりも非常に有意に高くなりました(HR:0.19、95%CI:0.10-0.39、p < 0.001)。出産前後関係なく低用量アスピリンはプラセボ群と比較して出血のリスクを増加させませんでした(HR:0.57、95%CI:0.25-1.33、p=.194)。
結論:
- 低用量アスピリン100mg/dは妊娠高血圧症候群、早産、子宮内胎児発育遅延、死産をなどの有害事象を減少させる治療であること
- 低用量アスピリン内服は妊娠16週以下で開始することが望ましいこと
- 低用量アスピリンを就寝時に内服し、起床時には摂取しないようにすること
妊娠高血圧症候群の家族歴は本人の既往、自然流産の個人歴、肥満、35歳以上の未経産妊婦を今回の対象としました。
≪私見≫
低用量アスピリンを朝内服するのには様々な仮説があります。朝のRAA系の更新が血圧調整をすることがわかっており、これらを是正するのに循環器分野では夜間の内服介入が推奨されてきた経緯があります。ただ、循環器での考え方が、そのまま周産期分野に当てはまるかどうかが議論されてきた経緯があるようです。
就寝前の低用量アスピリンを推奨する一方、胃粘膜障害の副作用が就寝前に出現しやすい懸念、寝てしまって内服を忘れてしまう懸念などがあります。今回の検討では起床時・夕方・就寝前の3パターンのなかで、夕方・就寝前はそれほど効果に差がなかったことから、今後当院では患者様の他の薬剤の内服時期を含めて夕食後もしくは就寝前に推奨していくこととしたいと思います。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。