異常受精胚の取扱のディスカッション(2021年 ESHRE)
2021年ESHREで、妊娠があったセッションが「異常受精胚(abnormally fertilised oocytes (AFO胚))の取扱い」です。
このセッションは0PN、2.1PNから生児出産の報告をしたAntonio Capalbo先生、Catello Scarica先生がセッション担当されました。
正常受精胚(2PN)由来の胚盤胞でも0.5~1%に倍数性の異常があるとされていて、これらはチェックされて移植されていることを指摘しました。最近の着床前検査の進化により今まで異常受精で移植対象から外されていた1PN胚由来の胚盤胞の50%、3PN胚由来の胚盤胞の10~20%が正常な2倍体であることを指摘。倍数性検査が基本にある中で、移植胚としての可能性を報告しています。ただし、二人の博士とも異常受精胚の発育・出生・長期予後は意識された発言をされています。その一つとして0PN由来の単胎児は2PN由来の胚の単胎児よりも出生時の体重が高いという例をあげています。
Antonio Capalbo先生、Catello Scarica先生は現在のところ、下記のように考えているようです。
①異常受精胚の国際的なガイドラインの更新は必須
②着床前検査を行うことが大前提であること
③2PN由来胚を優先的に移植すべきであること
④3PN以上の多核由来胚は移植対象としては推奨しないこと
⑤0PN および 1PN 由来胚は胚盤胞まで培養すること
⑥遺伝カウンセリングを行うこと
https://www.focusonreproduction.eu/article/ESHRE-News-ESHRE-2021-AFO
≪私見≫
この論調を見る限り2021年現在、新しい検査、そして報告により移植胚の評価に関して転換期であることがわかります。患者様に異常胚の取扱を質問された場合、この報告を示すしかありませんが、日本では異常胚に着床前検査を行うことが一般的には認められておらず、上記のような治療方針が立てられないのが実情です。
その上で患者様に情報提供を行い治療方針を決定していくことが大事だと考えています。
参考程度に当院での異常受精胚あたりの胚盤胞到達率は下記のとおりです。
胚盤胞到達率 | 良好胚盤胞到達率 | |||
受精方法 | 媒精 | 顕微授精 | 媒精 | 顕微授精 |
0PN | 2.2% | 0.8% | 0.9% | 0.1% |
1PN | 29.5% | 20.3% | 12.0% | 8.6% |
3PN | 培養なし | 16.0% | 培養なし | 4.3% |
つまり、異常受精胚の一部には良好胚盤胞になる胚があるということです。
移植判断は本当に難しいと思っています。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。