異常受精胚(3PN)の取扱い(論文紹介)
採卵を実施し受精方法を決定した後、最初に判断するのが受精確認です。
前核(PN)の数などを評価していきます。通常は2つ(2PN)ですが、異常受精の1つとして前核が3つ(3PN)見える場合があります。3PNの発生率は媒精では5-10%、 ICSIでは2-6%とされています。3PNは複数精子が卵子に受精した場合、卵子の減数分裂に異常があった場合、受精後の第2極体の放出不全による場合があります。
いくつかの研究では母体高齢化、重度男性不妊、過剰卵巣刺激によっても発生率が上昇するとされています。
異常受精胚(abnormally fertilized oocyte (AFO胚))は通常移植しないことが一般的でしたが、海外での着床前検査の普及により、一定数、異常受精胚でも正常核型であることも報告されています。3PN胚についての比較的新しい論文をご紹介させていただきます。
≪論文紹介≫
Kresna Mutia, et al.J Reprod Infertil.2019. PMID: 31423415
インド・ジャカルタで体外受精を行った女性12名30個の3PN由来の胚盤胞から着床前検査を実施し染色体異常の割合を検討しました。3PN由来の胚盤胞のうち、33.3%は正常核型(染色体)を有していました。残りの66.7%が異常染色体でしたが、3倍体43.3%(69, XXYの検出であり、69,XXXは正常核型としてカウントされている可能性あり)、モザイク13.4%、染色体異数体10%の順に異常率が認められました。
≪私見≫
FengとHerbert (2006)らも3PN胚は3倍体 61.8%、モザイク25.2%、正常染色体 12.65%と正常染色体の割合が低いことを指摘しており、今回も同様の結果となっています。現段階(日本国内での着床前診断の適応などを考慮すると)では3PN胚を戻すことに個人としては消極的な印象ともっています。しかし、2016年EnderらはICSI由来の3PN胚盤胞で健常児(39週3410g 女児:帝王切開)を分娩に至った報告をしています(Turk J Obstet Gynecol. 2016、DOI: 10.4274/tjod.45144)。また、2020年IVF学術集会で「3PN胚盤胞の着床前診断を行った結果、一定数の2倍体の正常核型胚があること」を報告しています。
着床前検査の倍数性検査が異常受精胚には適応となり実施できるようになることが今後の体外受精分野の重要なポイントなのかもしれません。
ATLAS OF HUMAN EMBRYOLOGY
(https://atlas.eshre.eu/es/14546650461602050?fbclid=IwAR1JQzB6iyYD3WGCRAHyvKQtmUnLqholNmHmIxN4My0LhYEr3JR3v99IauA)では、3PN胚は、顕微授精・媒精どちらの受精方法に由来するかにより評価がことなります。顕微授精では、第2極体の排出がおきず2倍体になった卵子に精子が注入され、3倍体の胚になってしまったパターンです。全体の約1%前後(文献により異なります)といわれています。巨大卵子は、一般的に2倍体であるパターンが多いとされています。媒精により3PN胚になった場合は多精子受精であることが多く約5%前後(文献により異なります)に見られるとされています。卵子が複数の精子が侵入するのを抑制する防御機能不全により生じることが多いとされています。そのほかにも細胞分裂の失敗や二倍体精子の受精より起こることがあるとされています。第二極体の放出は通常に起こることが多いです。
卵子内にあった空胞と前核を誤判断し正常受精なのに3PNと判断してしまう可能性がゼロではないことです。以前は前核内の前核小体の有無を複数の培養士で判断し区別していましたが、最近ではタイムラプスが主流になっており、以前に比べ誤診はなくなってきていると思います。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。