調節卵巣刺激にレトロゾールを追加すると胚質は変わる?(Hum Reprod. 2023)

レトロゾールはアロマターゼ阻害剤であり、血清エストラジオールを低下させるため、負のフィードバックを減少させ内因性ゴナドトロピンを増加させます。
調節卵巣刺激にレトロゾールを追加すると回収卵子数、胚質、生児獲得率が変わるかどうか調査した報告です。

≪ポイント≫

調節卵巣刺激にレトロゾールを追加しても、発育卵胞のリクルートメント、回収卵子数、胚質、生児獲得率は変わりませんでした。

≪論文紹介≫

Nathalie Søderhamn Bülow, et al.  Hum Reprod. 2023 Sep 12;dead182.  doi: 10.1093/humrep/dead182. 

rFSH150IUを用いたGnRHアンタゴニスト法に5mgのレトロゾールまたはプラセボを投与する無作為二重盲検プラセボ対照試験(RCT)の二次成績となります。2016年8月から2018年11月にデンマークの大学病院4施設で実施され、凍結融解胚移植の妊娠転帰は2023年5月まで登録されました。
正常卵巣予備能(AMH 8~32nmol/l)が期待される女性1,509人を、レトロゾール併用群(n = 80)またはプラセボ群(n = 79)に無作為に割り付けました。回収卵子1,268個、386個の胚に発育し、形態学と形態動態学が評価されました。129個の胚が新鮮胚移植、158個の胚がその後の凍結融解胚移植として実施されました。累積臨床妊娠率、生児獲得率、新鮮胚移植周期の子宮内膜厚、total FSH量に対するレトロゾールの影響を検討しました。
結果:
回収卵子における利用可能胚率は、レトロゾール併用群0.31 vs.プラセボ群0.36(平均差(MD)-0.05、95%CI(-0.12;0.03)、P = 0.65)と同程度でした。採卵時吸引対象の卵胞数は、レトロゾール併用群11.8個vs.プラセボ10.3個(MD 1.5、95%CI(-0.5;3.1)、P = 0.50)、回収卵子数はレトロゾール併用群8.0個vs. プラセボ群7.9個(MD 0.1、95%CI(-1.4;1.6)、P = 0.39)でした。トリガー日に13~16mmの発育卵胞から卵子が回収される確率は、プラセボ群でレトロゾール併用群より66%高く(95%CI(24%;108%)、P = 0.002)、トリガー日に17mm以上の卵胞から卵子が回収される確率は、レトロゾール併用群でプラセボ群より50%高い結果となりました(95%CI(2%;98%)、P = 0.04)。回収卵子あたり、または成熟卵あたり正常受精率は、IVFまたはICSIによる受精に関わらず、レトロゾール併用群とプラセボ群でそれぞれ0.48 vs.0.57(MD -0.09、95%CI(-0.24;0.04)、P = 0.51)、0.62 vs. 0.64(MD -0.02、95%CI(-0.13;0.07)、P = 0.78)でした。しかし、顕微授精群のMII率はレトロゾール併用群0.75 vs.プラセボ群0.88(MD -0.14、95%CI(-0.22;-0.06)、P = 0.03)と有意に低くなりました。患者1人あたりの5日目胚盤胞は1.5 vs. 2.0、P = 0.52、5日目ガラス化胚盤胞は0.8 vs. 1.2(MD -0.4、95%CI(-1.0;0.2)、P = 0.52)、6日目ガラス化胚盤胞は0.6 vs. 0.6(MD 0、95%CI(-0.3;0.3)、P = 1.00)と同程度でした。利用胚の形態評価は、レトロゾール併用群とプラセボ群で「Good」、「Fair」、「Poor」の分布が同じであり、より良好なクラスの胚が発生するオッズ比0.8、 95%CI(0.5;1.3)、P = 0.68でした。386個の胚のうち295個のタイムラプス評価(KIDscore™ D3) が高い割合はレトロゾール併用群でプラセボ群の1.2倍(CI (0.8; 1.9), P = 0.68)でした。移植あたりの臨床妊娠率は、レトロゾール併用群とプラセボ群でそれぞれ31% vs. 39%(リスク差8%、95%CI(-25%;11%)、P = 0.65)と同等であり、移植1回あたりの臨床妊娠率を移植日、トリガー時のエストラジオールおよびプロゲステロン値、黄体中期プロゲステロン値、回収卵子数で調整したaORは0.8(95%CI(0.4;1.6)、P = 0.72)でした。生児獲得率は、レトロゾール併用群とプラセボ群でそれぞれ、移植あたり28% vs. 37%(MD-9%、95%CI(-26%;9%)、P = 0.60)と同等でした。さらに、最後の採卵から4.8年後、計386個中287個の胚が新鮮周期またはその後の凍結融解胚移植周期で移植され、累積臨床妊娠率が報告されましたが、これはレトロゾール併用群vs. プラセボ群で38% vs. 34%(MD 95%CI(8%;16%)、P = 0.70)と同様でした。

≪私見≫

同じ報告者らは以前にこの研究のホルモン動態を報告しています。
今回の報告を見る限りにおいて、特殊な理由がない限り、調節卵巣刺激に初回からレトロゾールを併用するメリットはなさそうですね。

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文責:川井清考(院長)

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