調節卵巣刺激(卵巣刺激)の注射製剤の選び方

患者様に卵巣刺激のために投与する注射はHMG製剤、r-FSH製剤など様々な種類がありますが、臨床に関して結果に差があるのでしょうか。
2018年11月まで報告されている論文からヨーロッパ生殖医学会の専門家委員会がまとめたガイドラインとしては「調節卵巣刺激(卵巣刺激)の注射製剤にはほぼ差がない」という結論です。国内で販売されていない注射製剤も多々ありますので、日本で発売されているものを中心にガイドラインで触れられていた内容を記載したいと思います。

ESHRE guideline: ovarian stimulation for IVF/ICSI
Hum Reprod Open. 2020 DOI: 10.1093/hropen/hoaa009.

①r-FSH vs. HMG

卵巣刺激のための組換えFSH(r-FSH)およびヒト更年期ゴナドトロピン(hMG)の使用は、同様に推奨される。

3197人の女性を含むコクランのメタアナリシスでは、卵巣刺激についてhMGと比較してr-FSH後の出生数が有意に少ないことが報告されています(11 RCT、OR 0.84、95% CI 0.72-0.99)。メタアナリシスでは、hMGと比較してr-FSHのOHSS率に差はないと報告されています(11 RCT、OR 1.00、95%CI 0.58-1.71)(van Welyら. 2011)。
メタアナリシスの発表以来、いくつかのRCTが発表されています。749人の女性を含むRCTでは、高純度hMGはGnRHアンタゴニストサイクルにおける累積生存率(40%対38%)の点で少なくともr-FSHと同等の効果があることが報告されています。OHSSは各治療群で3%(10人の女性)発症しています(Devroey, ら. 2012)。
最新のRCT(160名女性)では卵巣刺激に対するhMGとr-FSHの間には、出生率(27.5%(11/40)対40%(16/40))に有意差はないと報告されています(Parsanezhadら、2017)。
PCOS患者80人を含む小規模RCTでは、卵巣刺激に対するhMGとr-FSH間で、出生率(23.1% vs. 35.7%)または軽度OHSS率(0.0%(0/38) vs. 11.9%(5/42))に有意差はないと報告されています(Figen Turkcapar ら. 2013)。
高齢女性127人を含む小規模RCTでは、hMG群とr-FSHの間では出生率に差がないと報告されています(44.4%(28/63) vs. 29.7%(19/64))(Yeら.2012)。
メタアナリシスの結果から、GnRHアゴニストサイクルにおいてhMGはr-FSHに比べてわずかに高い有効性(出生率/妊娠継続率)を示しています。しかし、コクランのメタアナリシスによると、この差は臨床的に有意とは考えられず、安全性に差がないことからESHREガイドライン委員会はhMGがr-FSHより優れているとは言えないと結論付けました。GnRHアンタゴニストサイクルについては、エビデンスはそれほど広くないが、Devroeyらは、高純度hMGがアンタゴニストサイクルにおいて少なくともr-FSHと同等の効果を示すことを示しました(Devroey ら. 2012)。PCOSおよび高齢の女性を対象としたこの問題に関する研究は限られており、を現在のエビデンスに基づいて結論できることはできません。

②r-FSH vs. 精製型 FSH (p-FSH)

GnRHアゴニストプロトコルにおける卵巣刺激のための組換えFSH(r-FSH)および精製FSH(p-FSH)の使用は、同様に推奨される。

前述のコクランのメタアナリシスでは、GnRHアゴニストプロトコル(ロング法)の場合、p-FSHと比較してr-FSHは出産とは強くは関連しませんでした(5 RCT、OR 1.26、0.96-1.64、1430名)。メタアナリシスでは、r-FSHとp-FSHの間でOHSS率に有意差はないと報告されています(6 RCT、OR 1.79、95%CI 0.89~3.62、女性1490人)(van Welyら. 2011)。コクランのメタアナリシスによると、体外受精患者においてロング法を実施した場合、p-FSHの使用はr-FSHよりも好ましくないとされています。GnRHアンタゴニストサイクルについては、現在のところ言及するだけの論拠がありません。

③アロマターゼ阻害薬を調節卵巣刺激に追加することのメリット

レトロゾールは、反応不良者のゴナドトロピンの代用品としてはおそらく推奨されない。

体外受精の卵巣刺激におけるゴナドトロピンの総必要量を減らす方法として、レトロゾールを併用することが提案されています。近年、レトロゾールとゴナドトロピンの併用は、特に卵巣刺激への反応が悪いと予測される女性において使われるようになってきています (Goswamiら. 2004)。
卵胞期初期のレトロゾールによるFSHの代わりになるかは、いくつかのRCTで検討されているが限定されています。70、20および50名の女性を含む3つのRCTで、レトロゾール・ゴナドトロピン併用療法が検討されました(Ebrahimiら. 2017、Verpoestら. 2006、Yasaら. 2013)。EbrahimiらとVerpoestらは、レトロゾール・ゴナドトロピン併用療法による臨床妊娠率はレトロゾールなし群と比較して差がないことを報告しています(14.3%(5/35)対11.3%(4/35)、50%(5/10)対20%(2/10))(Ebrahimiら. 2017、Verpoestら. 2006)。Yasaらも同様に、レトロゾール・ゴナドトロピン併用療法による妊娠継続率はレトロゾールなし群と比較して差がないことを報告しています(20%(5/25)対20%(5/25))(Yasaら. 2013)。RCTの数と規模が少ないこと、レトロゾールが適応外使用であることから確固たる推奨はできないとしています。

④クエン酸クロミフェンを調節卵巣刺激に追加することのメリット

卵巣刺激でクエン酸クロミフェンによるFSHの代用を推奨するエビデンスはありません。

調節卵巣刺激のためにクエン酸クロミフェンをゴナドトロピンに添加することの有益性を調査している研究はありません。卵胞期初期におけるクエン酸クロミフェンによるゴナドトロピンの置換を調査した研究が発表されています。

≪私見≫

過去の論文は新鮮胚移植ありきの出生率とOHSS発症率に焦点を当てた内容が多いので現在の体外受精の本流(全胚凍結が大部分をしめるPPOSを含めた体外受精治療)とは少し考え方が変わってきている気もします。

①、②に関しては私も同様の見解です。やはり「価格」と「通院回数」が患者様に選択してもらう基準となっている気がします。③、④は日本で数多く行われているクロミッドHMGやレトロゾールHMG、そして低刺激の場合の考えを否定するものではなく、あくまで「卵巣刺激の注射と比較した際の有用性」を示したものです。
卵巣刺激に対しても、このガイドラインに関しては記載されておりますので、時期をみてご紹介させていただきたいと思います。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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