正常卵巣予備能女性に卵巣刺激にレトロゾールを併用すると?(論文紹介)

FSHアンタゴニスト法にレトロゾール併用することでトリガー時のプロゲステロン濃度が1.5ng/ml以上の割合が増加するかと検討した報告をご紹介いたします。この基準を設定しているのは新鮮胚移植の成績がプロゲステロン濃度の上昇と関連することがわかっています。こちらに由来したstudy questionとなっています。

≪論文紹介≫

Nathalie Søderhamn Bülow, et al. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deab249

2016年8月から2018年11月まで、デンマークの大学病院の4つの不妊治療クリニックで実施された無作為化二重盲検プラセボ対照試験です。
正常な卵巣予備能(PCOSやpoor responder患者を除いています)が期待される女性129名に対してFSH 150単位でのFSHアンタゴニスト法にとともにレトロゾール5mg/日(n = 67)またはプラセボ(n = 62)で検討しました。プロゲステロン、エストラジオール、FSH、LH、アンドロゲンを、刺激開始から黄体期中期まで分析しました。またレトロゾールが生殖成績、FSH総消費量、有害事象に及ぼす影響を評価しました。
結果:
トリガー時のプロゲステロン>1.5ng/mlの女性の割合は、レトロゾールでは6% vs. 0%(OR 0.0、95%CI[0.0~1.6]、P = 0. 12)であったのに対し、黄体中期プロゲステロン>30ng/mlの女性の割合はレトロゾール群で有意に増加しました(59% vs.31%(OR 3.3、95%CI [1.4~7.1]、P=0.005))。レトロゾールはプラセボ群と比較して、排卵誘発日のエストラジオールレベルを68%(95%CI [60%~75%]、P < 0.0001)減少させました。その他のホルモンプロファイルをAUCで検討したところ、LH増加率はレトロゾール群 vs. プラセボ群で、卵胞期で38%(95%CI[21%~58%]、P<0.0001)、黄体期で34%(95%CI[11%~61%]、P = 0.006)でした。レトロゾール群とプラセボ群を比較した場合、テストステロンは、卵胞期および黄体期にそれぞれ79%(95%CI [55%~105%]、P < 0.0001)および49%(95%CI [30%~72%]、P < 0.0001)増加しました。レトロゾール群とプラセボ群の比較では,アンドロステンジオンの増加は,卵胞期と黄体期でそれぞれ85%(95%CI [59%~114%],P < 0.0001)と69%(95%CI [48%~94%],P < 0.0001)でありDHEAは変化しませんでした。妊娠継続率は,レトロゾール群とプラセボ群で同等でした(31% vs.39%(リスク差8%,95%CI[25%~11%],P = 0.55))。重篤な副作用は両群ともに認めませんでした。レトロゾール群では、外因性FSH刺激の総期間が1日短くなり、FSHの総消費量が有意に減少しました(平均差100IU、95%CI[192~21単位]、P = 0.03)。
結論:
プロゲステロン値が1.5ng/ml以上の未熟な女性の割合は、レトロゾールの併用により有意な影響を受けませんでした。

≪私見≫

この論文は医療者にとっては、とても大事な論文なんですが、患者様にとってはあまり面白みがない論文ですよね。PCOSなどの患者様でなければレトロゾールを併用したHMGアンタゴニスト法は、使用しない場合と同様に新鮮胚移植をすることが可能であることがわかります。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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