ヨーロッパ生殖医学会の推奨する調節卵巣刺激とは?
日本では様々な卵巣刺激が実施されています。クリニックはそれぞれの特徴をもって、患者様の状態に合わせて最良の妊娠・出生率、そして合併症の予防に努めます。そんな中で最近思うのは、ネット社会のせいか標準的な治療よりも一人の発信者の意見が正しいかのように捉えられ、それが不妊治療の自費診療と重なってクリニック批判を招いているのでは?と思っています。今後、日本も不妊治療を保険診療化していくうえでは治療の標準化は必須です。
ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)のガイドライン「体外受精/顕微授精のための卵巣刺激」の主要な項目の箇条書きです。
特徴としては、①新鮮胚移植を前提とした卵巣刺激選択であることであり、全胚凍結を主体としたPPOSなどの刺激が選択肢に含まれていない点、②日本で主流に行われているクロミッドHMGが論文が少なく評価されていない点です。
この数年、卵巣刺激のスタンダードは大きく変わっています。これらの標準的な治療をベースに患者様に、どのような治療を選択していくかご提示していくことが大事だと考えております。
ESHRE guideline: ovarian stimulation for IVF/ICSI
Hum Reprod Open. 2020 DOI: 10.1093/hropen/hoaa009.
卵巣刺激への予測される反応別の刺激方法
*卵巣予備能が十分あり、OHSSリスクが高い患者様
- GnRHアンタゴニストプロトコルは、安全性の向上と同等の有効性に関して、PCOSの女性に推奨されている。(Lambalk ら. 2017) (Strong)
- High responseが予測される女性には、安全性の向上と同等の有効性の観点から、GnRHアンタゴニストプロトコルを推奨されている。(ガイドライン推奨)
- 刺激プロトコルにおけるゴナドトロピンへのクエン酸クロミフェン(クロミッド®︎)の添加は、High responseが予測される女性にはおそらく推奨されない。(Lin ら. 2007; Saleh ら. 2014; Jiang and Kuangら. 2017) (Conditional)
- High responseが予測される女性には刺激プロトコルにおいて、ゴナドトロピンへのレトロゾールの追加を推奨する十分なエビデンスはない。(Chenら. 2018) (Conditional)
- GnRHアンタゴニストプロトコルは、High responseが予測される女性に推奨されている。GnRHアゴニストプロトコルを使用する場合は、OHSSのリスクを減らすためにゴナドトロピン用量を減らすことが推奨されている。(Oudshoornら. 2017) (Conditional)
High responseが予測される女性に卵巣刺激に自然周期または準自然周期を使用することを正当化する報告はありません。
*卵巣予備能が正常な患者様
- GnRH アンタゴニストプロトコルは、安全性の向上に関して、normal responseが予測される女性に推奨されている。(Lambalk ら. 2017) (Strong)
- 刺激プロトコルにおけるゴナドトロピンへのレトロゾールの添加は、おそらくnormal responseが予測される女性には推奨されていない。(Verpoest ら. 2006; Mukherjee ら. 2012) (Conditional)
- normal responseが予測される女性に対しては、従来のゴナドトロピン用量よりもゴナドトロピン用量を減らすことは、おそらく推奨されていない。(Hohmannら. 2003;Baartら. 2007;Blockeelら. 2011;Sterrenburgら. 2011) (Conditional)
現在のところ、normal responseが予測される女性の刺激プロトコルにおけるクエン酸クロミフェンの使用を推奨する証拠はありません。
*卵巣予備能が低下しており卵巣刺激への反応が不良と考えれる患者様
- GnRH アンタゴニストと GnRH アゴニストは、Poor responseが予測される女性に同様に推奨されている。(Xiao ら. 2013; Lambalkら. 2017) (Conditional)
- クロミッド単独またはクロミッド+ゴナドトロピン刺激単独の併用は、Poor responseが予測される女性に推奨されている。(Bechtejewら. 2017) (Strong)
- ゴナドトロピン刺激へのレトロゾールの追加は、Poor responseが予測される女性にはおそらく推奨されていない。(Bechtejew ら. 2017) (Conditional)
- Poor responseが予測される女性に対して 150 IU 以上のゴナドトロピン投与量が推奨されるかどうかは不明である。(Lensenら. 2017) (Conditional)
- Poor responseが予測される女性には、300 IU を超えるゴナドトロピン用量は推奨されていません。(Lensen ら、 2017) (Strong)
- Poor responseが予測される女性に対しては、従来の 卵巣刺激 よりも準自然周期はおそらく推奨されていません。(Morgiaら、2004)(Conditional)
Poor responseが予測される女性の患者を対象とした従来のFSH刺激と減量FSH投与量(<150 IU/日)を比較した研究は認められませんでした。
*どのLH抑制する卵巣刺激が望ましいか?
- GnRHアゴニストを使用する場合は、ショート法やウルトラショート法より、ロング法が推奨される。(Siristatidis ら. 2015) (Conditional)
- 一般的なIVF/ICSI集団における有効性と安全性を考慮すると、GnRHアゴニストプロトコルよりGnRHアンタゴニストプロトコルの方が推奨される。(Al-Inany ら. 2016) (Strong)
- LHピーク抑制のためのプロゲスチンの使用は、おそらく推奨されない。全胚凍結の場合は使用可能である。 (Kuang ら. 2015; Chen ら. 2017; Hamdi ら. 2018) (Conditional)
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。