卵巣刺激途中にhCGを投与して大丈夫なの?②(論文紹介)

hMGやr-FSHの卵巣刺激注射に併用して、排卵誘発ではなく卵巣刺激時に低用量hCG 50-100単位を追加する卵巣刺激法があります。
hCGとLHは両方とも同じαサブユニットを持ち、LH/hCG受容体に結合して活性化します。hCGのβサブユニットはLHとは異なる構造とグリコシル化パターンを持ち、その結果、LH/hCG受容体に対する親和性が6倍に増加し、半減期が長くなります。LH/hCGはアンフィレグリンやエピレグリンなどのポストレセプターパラクリン因子を介して作用します。これらの表皮成長因子様因子は、細胞分裂を促し卵子が減数分裂Ⅰ期を再開するきっかけとなり成熟率を高めることが示されています。じつはhCG mRNAは、胚の2細胞期には早くも転写開始されており、着床前にはすでに胚によってhCGタンパク質が分泌されているとされています。
今回ご紹介する論文はhMG製剤に含まれているhCGではなく、r-FSHとは別にhCGを卵巣刺激時に投与したら、体外受精成績はどうなるの?という趣旨の論文です。

Anthony M Propstら. Fertil Steril. 2011. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2011.06.069.

≪論文紹介≫

2002年5月から2005年10月までの期間に、23歳から40歳までの患者239例に行った後方視的研究です。
r-FSH単独群とr-FSH+低用量hCG添加群のピル併用GnRHアンタゴニストプロトコールを用いた評価を着床率と出生率を評価項目として検討しました。
r-FSH単独群は1日あたりr-FSHを150~600 単位を朝夕に分けて開始、r-FSH+低用量hCG添加群はr-FSHを朝150または225 IUの用量で開始し夕方に低用量hCGを50または単位追加しました。LH抑制にはガニレスト®︎を用い、uhCG5000-10000単位で排卵誘発を行い36時間後に採卵を実施、その後新鮮胚移植を実施しました。
結果:
239人の患者全体、その中でトリガー時のLH値 <0.5mIU/mLとなった42人の患者を評価しました。全体では、r-FSH単独群(n = 113)とr-FSH+低用量hCG添加群(n = 126)に着床率と妊娠率に差はありませんでした。r-FSH単独群では、LH値 <0.5 mIU/mL の患者は、LH値 >0.5 mIU/mL の患者と比較して、着床率(19% vs. 42%)と出生率(25% vs. 54%)が低下していました。r-FSH+低用量hCG添加群のLH値 <0.5 mIU/mL 患者は、r-FSH単独群のLH値 <0.5 mIU/mL 患者と比較して、着床率(54% vs. 19%)と出生率(64% vs. 25%)が有意に高くなりました。

≪私見≫

この論文は卵巣刺激だけではなく新鮮胚移植の着床率にも言及しています。着床率のHCGの関与は今後でてくる移植前の低用量hCG注入療法にも通じてくる考えなんだと思います。
また卵巣刺激時に低用量hCGを卵胞発育のために投与することは以前当院でもおこなっておりましたが、最近ではめっきり行わなくなりました。今後、全胚凍結が中心となると卵巣刺激の多くがPPOSに変わっていくと考えています。その上で、再度低用量HCG投与を検討してみたいと思います。

今回改めて感じた点は以下の点です。

  • ピルにてLHが抑制される患者はガニレスト投与時のLHの抑制と関連する。
  • hCGは少ない量(50-100単位)であれば卵胞が小さい刺激途中で排卵させることはない。
  • r-FSH+低用量hCG添加群では採卵決定時のエストラジオール値が高く、発育卵胞数が少なく、totalでの必要FSH量が減少する。
  • Filicoriらをはじめ、いくつかの研究で卵巣刺激にLH/hCGを追加すると中間卵胞数(10-14mm)や大卵胞数(14mm以上)に影響を与えることなく、小さな卵胞の退縮が見られること、有効胚数や卵子の質を低下させることはないが同様に示されている。

文責:川井清考(院長)

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