卵巣刺激中のSARS-CoV-2感染は胚質に影響する(JAMA Netw Open. 2023)

卵巣刺激中にSARS-CoV-2感染をしてしまい治療を継続した場合、胚質はどうなるのでしょうか。

≪ポイント≫

卵巣刺激中のSARS-CoV-2感染は男女どちらの感染も、胚質に影響する可能性があります。

≪論文紹介≫

Fen Tian, et al. JAMA Netw Open. 2023 Jul 3;6(7):e2323219. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.23219.

2022年10月1日から2022年12月31日に、中国4省7生殖医療施設で体外受精を実施したカップルを対象に卵巣刺激中のSARS-CoV-2感染が生殖医療結果に影響をあたえるかどうか調査した多施設後ろ向き研究を実施しました。全てのカップルが卵巣刺激中にSARS-CoV-2核酸検査を実施しました。
女性・男性どちらかが検査陽性の場合に陽性群と定義しました。
評価項目は有効胚および胚盤胞到達率、最高グレードの胚および胚盤胞到達率としました。副次評価項目として、回収卵子数、成熟卵率、正常受精率、卵子変性率、分割率、胚盤胞到達率としました。
結果:
585組の不妊症カップル(女性年齢中央値[IQR]:33[30-37]歳)が研究に参加し、SARS-CoV-2群は135組、SARS-CoV-2陰性群は450組でした。患者背景に類似していました。
SARS-CoV-2陽性群では、最高グレード胚到達率(OR、0.83;95%CI、0.71-0.96)、最高グレード胚盤胞到達率(OR、0.59;95%CI、0. 45-0.77)、有効胚盤胞到達率(OR、0.70;95%CI、0.59-0.82)、胚盤胞到達率(OR、0.61;95%CI、0.52-0.71)は、SARS-CoV-2陰性群よりも高くなりました。感染した男女間の違いを解析した結果、女性陽性群は陰性群と比較して、成熟卵子率、分割率、最高グレード胚到達率、胚盤胞到達率、有効胚盤胞到達率、最高グレード胚盤胞到達率が低下していました。男性陽性群および男女ともに陽性群は、有効胚盤胞到達率、最高グレード胚盤胞到達率、胚盤胞到達率が低下していました。

≪私見≫

SARS-CoV-2感染はACE2とTMPRSS2の発現変化が影響を与えるとする考えもありますが、ウイルスが細胞に侵入し直接的な影響を与えている可能性もありますし、全身性の酸化ストレスと炎症に起因する可能性もあります。通常に考えると、SARS-CoV-2感染でなくても体調が悪ければ生殖医療結果に影響を与える気はしますね。今回の結果では、卵巣刺激中のSARS-CoV-2感染は、改修卵子数およびトリガー日のピークE2値には影響を与えていませんでした。

またSARS-CoV-2感染は体外受精結果に影響を与えないとする報告もあります。

  1. Boudry L, et al. Fertil Steril. 2022;117(4):771-780.
    採卵48時間以内にSARS-CoV-2検査陽性であった16名の検討で成績差なし
  2. Chen X, et al. Sci China Life Sci. 2023;66:1-4.
    採卵の7日以内、7~14日、14日以上前にSARS-CoV-2感染であった206名と非感染の700名の生殖医療成績を検討。7日以内の場合は成績やや低下。

患者様に、起こり得る可能性を説明し、やってみないとわからないというのが答えになるのでしょうか。当院では、卵巣刺激中の発熱やSARS-CoV-2感染は治療をキャンセルさせていただいております。

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文責:川井清考(院長)

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