妊娠周期抗生剤使用は妊娠に有利・不利?(Fertil Steril. 2023)
「妊娠直前に抗生物質を使用するのは有利か不利か?」一般的に考えて、抗生物質を使用する必要がある状況では、体調が悪かったり、感染症にかかっていたりするため、夫婦生活が困難になることが多いですし、妊娠しにくいだろうと思いますよね。ただし、最近では無症状の慢性子宮内膜炎などに対しても抗生物質がすることが多く、迷ったら抗生物質を処方してほしいという声があることも確かです。
昨日、妊娠しやすさと関係とないとするアメリカの論文を紹介しましたが(妊娠周期抗生剤使用は妊娠に有利・不利?(Hum Reprod. 2021))、今回は、デンマークの前向きコホート研究で、抗生物質の使用と妊娠しやすさについて調査した結果を紹介します。
≪ポイント≫
妊娠前の抗生物質使用、特にスルホンアミド系とマクロライド系は、使用しない場合と比較して妊娠しやすさが低下することが関連していました。観察された関連性は、抗生物質の適応に関するデータがないため、様々な交絡因子は除外できていません。ただし、迷ったら抗生剤を飲みたいという間違った方向には進まないように意識しないといけません。
≪論文紹介≫
Ellen Margrethe Mikkelsen, et al. Fertil Steril. 2023 Apr 26;S0015-0282(23)00315-1. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.04.030.
SnartForaeldre.dkは、デンマーク在住の妊娠を希望する女性を対象としたデンマークの前向きコホート研究です(2007-2020年)。9,462人の女性を登録し、年齢中央値29歳でした。抗生物質使用は、The Danish National Prescription RegistryからAnatomical Therapeutic Chemicalコードを用いて検索した処方箋により定義し、月経周期とあわせて管理しました。
妊娠は、8週間ごとに行われる女性の追跡調査アンケートで、最長12カ月間、または妊娠するまで行いました。女性年齢、パートナー年齢、教育、喫煙、葉酸サプリメント、BMI、経産の有無、月経周期、性交頻度、性感染症を調整し、妊娠しやすさを評価しました。
結果:
少なくとも1つの抗生物質処方を行われた女性割合は11.9%で、ペニシリン系が8.6%、スルホンアミド系が2.1%、マクロライド系が1.8%でした。Life-table methodsによると、参加者の86.5%がフォローアップの12周期以内に妊娠していました。妊娠前の最近の抗生物質の使用は、妊娠しやすさの低下と関連していました(1回以上の処方 vs. なし:調整後妊娠しやすさ=0.86、95%CI:0.76-0.99)。ペニシリン系、スルホンアミド系、マクロライド系を使用している参加者の調整後妊娠しやすさは、それぞれ0.97(95%CI:0.83-1.12)、0.68(95%CI:0.47-0.98)、0.59(95%CI:0.37-0.93)でした。
妊娠数 |
周期 |
調整前 |
調整後 |
|
|
|
FR(95%CI) |
FR(95%CI) |
|
ペニシリン | 155 |
935 |
Ref. |
Ref. |
スルホンアミド |
26 |
223 |
0.67(0.45-0.99) |
0.73(0.49-1.08) |
マクロライド |
18 |
184 |
0.59(0.36-0.95) |
0.59(0.37-0.95) |
他剤 |
13 |
115 |
0.71(0.42-1.20) |
0.80(0.47-1.36) |
≪私見≫
抗生剤は耐性菌の問題もありますので、やはり適切な使用を志すべきだと感じています。
過去の抗生剤使用と妊娠しやすさを比較した検討は3本です。
- 妊娠しにくくなるとしたデンマークの論文
Schaumburg I, Olsen J. ScandJWork EnvironHealth 1989;15:222-6. - 妊娠しやすさと関係とないとするアメリカの論文
Grodstein F, et al. Epidemiology 1993;4:151-6.
Crowe HM, et al. Human reproduction (Oxford, England) 2021;36:2761-8.
亀田総合病院の感染症ガイドラインも参考になさってください。
https://medical.kameda.com/general/medical/infectious_disease/index.html
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。
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