胚移植パターンによる早期/後期発症妊娠高血圧腎症リスク(レトロスペクティブコホート2023)

ホルモン補充周期凍結融解胚移植は排卵周期凍結融解胚移植と生殖医療成績が変わりませんが、通常の排卵と異なり黄体が存在しないことが問題で妊娠高血圧腎症リスクなどが増加するのでは?としています。黄体がない状況では、妊娠初期の母体心血管機能が変化することをConradらは報告していて、その二次的な結果が周産期合併症として現れてきていると考えられています。
妊娠高血圧腎症は早発型(低い心拍出量と高い血管抵抗)と後発型(高い心拍出量と低い血管抵抗)で特徴が違うとされていて、ホルモン補充周期はどちらのリスク因子になるかどうか調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

ホルモン補充周期凍結融解胚移植妊娠では、新鮮胚移植妊娠や排卵周期凍結融解胚移植妊娠と比較し妊娠高血圧腎症リスク(特に後期発症妊娠高血圧腎症)が増加する可能性があります。

≪論文紹介≫

Yue Niu, et al.  J Assist Reprod Genet. 2023 Mar 31.  doi: 10.1007/s10815-023-02785-0. 

2012年1月から2020年3月に体外受精初回周期で単胎児出産した女性24,129名を対象に早期/後期発症妊娠高血圧腎症リスクを調査したレトロスペクティブコホート研究です。排卵周期凍結融解胚移植妊娠、ホルモン補充周期凍結融解胚移植妊娠を新鮮胚移植妊娠と比較しました。
結果:
多変量ロジスティック回帰の結果、ホルモン補充周期凍結融解胚移植妊娠群では新鮮胚移植妊娠群[2.2% vs. 0.9%、aOR:2.00、95% CI:1.45-2.76]および排卵周期凍結融解胚移植妊娠群[2.2% vs. 0.9%、aOR:2.17、95%CI:1.59-2.96]に対して妊娠高血圧腎症リスクが高くなりました。
分娩時週数を34週未満または34週以上で層別化すると、ホルモン補充周期凍結融解胚移植妊娠群では新鮮胚移植妊娠群[1.8% vs. 0.6%、aOR:2.56、95%CI:1.83-3.58]および排卵周期凍結融解胚移植妊娠群[1.8% vs.0.6%、aOR:2.63、95%CI:1.86-3.73]と比べて後期発症妊娠高血圧腎症リスクが高くなりました。早期発症妊娠高血圧腎症リスクは3群で差がありませんでした。

≪私見≫

先日ご紹介したブログ「排卵周期とホルモン補充周期の凍結融解胚移植予後(レトロスペクティブコホート 2022)」と同様の結論となっていますね。今回の報告は30歳前後と若年の結果ですが、妊娠高血圧腎症リスクが上昇しているのが衝撃的でした。当研究では、周期凍結融解胚移植はジドロゲステロンのみ、ホルモン補充周期凍結融解胚移植は腟プロゲステロンゲル+ジドロゲステロンでの黄体補充となっています。患者様の不妊病態にあわせて治療選択を行なっていく必要がありそうです。

文責:川井清考(院長)

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