男性のプレコンセプションケア④~父親の健康状態によっては、母体の命に関わることがあり得る?(論文紹介)
≪今回ご紹介する論文≫
妊娠前の父親の健康状態と健康な母親の周産期合併症の関連性:米国保険請求データの分析
Association of preconception paternal health and adverse maternal outcomes among healthy mothers.
Murugappan G, Li S, Leonard SA, Winn VD, Druzin ML, Eisenberg ML.
Am J Obstet Gynecol MFM. 2021 Sep;3(5):100384. doi: 10.1016/j.ajogmf.2021.100384. Epub 2021 Apr 23. PMID: 33895399.
父親の不健康であると、母子の周産期予後に影響を与えることが少しずつ明らかにされています。この研究グループは、米国の保険請求データベースを用いて男性パートナーの健康状態と母子の健康の関連性についていくつもの結果を出していて、このブログでも度々紹介しています。
一般的には母親の健康状態が重要視されていますので、この論文ではもともと健康で周産期のリスクの少ないと考えられる女性で生児獲得した症例を対象としています。つまり、女性の因子を排除した状態で、父親の健康上の問題が母親の周産期合併症と関連するかどうかを検討しました。
結果は、男性の健康上の問題が、母親の周産期合併症をおこす有意な因子となっている可能性が示されました。
≪研究の要旨≫
この研究の背景として、妊産婦の合併症は、世界的に継続的に懸念されている問題となっていることがあります。父親の妊娠前(プレコンセプションの時期)の健康状態は、妊娠の結果に重要な役割を果たす可能性がありますが、母親の健康よりも注目されていません。
本研究は、健康な母親を対象に、妊娠前の父親の健康と母親の周産期合併症のリスクとの関連を検討することを目的として実施されました。
この研究は、IBM Marketscanリサーチデータベースに記録された20歳から45歳の健康な女性において、2009年から2016年までの生児を獲得した症例を後ろ向きに分析したものです。出生児は、家族IDを使用して母親と父親のペアにひもづけされました。妊娠前の父親の健康状態は、メタボリックシンドローム構成要素の診断個数および最も一般的な個々の慢性疾患の診断(高血圧、糖尿病、肥満、高脂血症、慢性閉塞性肺疾患、がん、うつ病)を用いて評価されました。母親と父親の要因による交絡の可能性を避けるため、メタボリックシンドロームの構成要素を持つ女性は除外され、健康上の問題のない母親を対象としました。評価対象となった母体の周産期合併症の転帰は、(1)癒着胎盤、前置胎盤、胎盤剥離を含む胎盤異常、(2)子癇を含む重症の有無を問わない妊娠高血圧腎症(子癇前症)、(3)出産時から産後6週までの生命を脅かす合併症(Centers for Disease Control and Prevention Indexにより規定される重症な母体の病態*)に分類されました。妊娠前の父親の健康と各母親の転帰との間の関連性を解析しました。また、研究期間中に複数回の出産を経験した一部の母親も考慮し、母親の年齢、父親の年齢、出生地域、出生年、母親の喫煙、年間の平均外来受診回数を調整して、父親の健康と母親の転帰との独立した関連性を解析しました。
結果は以下の通りとなりました。 健康な母親が出産した669,256例のうち、母親の周産期合併症と、妊娠前の父親の健康状態の悪化(メタボリックシンドローム診断の個数または慢性疾患診断の個数のいずれかで定義されたもの)との間に有意な関連性がみとめられました(P<0.001)。重篤な特徴を持たない妊娠高血圧腎症(子癇前症)のオッズは用量依存的に増加し、パートナーがメタボリックシンドローム診断を受けていない女性よりも、パートナーがメタボリックシンドローム診断要素2つ以上の女性で21%のリスク上昇となりました(95%信頼区間、1.17-1.26)。重症の妊娠高血圧腎症(子癇前症)および子癇のオッズは、用量依存的に増加し、パートナーがメタボリックシンドローム診断を受けていない女性よりも、パートナーがメタボリックシンドローム診断の要素が2つ以上の女性でリスクが19%高い結果となりました(95%信頼区間、1.09-1.30)。生命を脅かす様な母親の周産期合併症*のオッズは、パートナーがメタボリックシンドロームの診断を受けていない女性よりも、パートナーがメタボリックシンドロームの診断の要素が2つ以上ある女性ある女性で9%上昇していました(95%信頼区間、1.002-1.19)。胎盤異常のオッズは、両群間で同程度でした(調整オッズ比、0.96;95%信頼区間、0.89-1.03)。
結論としては以下の様になります。
健康な母親において、妊娠前の父親の健康状態は、妊娠高血圧腎症(子癇前症)のオッズ増加と有意に関連し、重篤な母親の合併症発症率のオッズ増加と弱い関連がありました。これらの結果から、産科合併症のリスクが低い健康な女性において、父親由来の因子が母体の合併症の発生に関わっている重要な要素であることを示唆されます。
*重症な母体の合併症の指標に含まれるもの:
急性心筋梗塞、動脈瘤、急性腎不全、成人呼吸窮迫症候群、羊水塞栓症、心停止・心室細動、カウンターショック、播種性血管内凝固症候群、子癇、手術や処置中の心不全や停止、産婦の脳血管障害、肺水腫/急性心不全、重篤な麻酔の合併症、敗血症、ショック、クライシスを伴う鎌状赤血球症、空気・血栓性塞栓症、輸血、子宮摘出術、一時的な気管切開、人工呼吸
≪筆者の意見≫
周産期合併症の原因は母親の因子が重要視されることは言うまでもありません。今回の研究では、健康な女性に絞って、男性の妊娠前の健康状態の影響を検討しています。結果、女性の因子を排除した状態でも、男性の健康上の問題により、母親の周産期合併症のリスクが有意に上昇していたという結果でした。つまり、メタボや高血圧などの慢性疾患をもっている男性パートナーを持つと、その女性バートナーは命のリスクが男性疾患のために上がってしまうと言うことになります。
くりかえしお伝えしていますが、幸せな家庭を作るにはまず自分の健康管理から行うことが重要で、健康獲得により、女性パートナーの安全な妊娠出産につながるということになることを知っておいて欲しいと思います。
文責:小宮顕(泌尿器科部長)
亀田メディカルセンターでは男性不妊外来を開設しております。
泌尿器科専門医・指導医、生殖医療専門医の小宮顕部長が担当します。
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