男性のプレコンセプションケア③~アルコール摂取と精液所見の関係についての正式な研究結果報告〜(論文紹介)

≪今回ご紹介する論文≫

ALDH2 Expression, Alcohol Intake and Semen Parameters among East Asian Men.
Greenberg DR, Bhambhvani HP, Basran SS, Salazar BP, Rios LC, Li SJ, Chen CH, Mochly-Rosen D, Eisenberg ML. J Urol. 2022 Aug;208(2):406-413. PMID: 35344413.

東アジアの男性におけるALDH2発現、アルコール摂取量および精液のパラメーター

以前、米国泌尿器科学会(2022年)での研究発表でのアルコール摂取と精液所見の関連についてご紹介しました(2022年7月23日投稿)。その研究発表が正式な論文になったものがありましたので再度ご紹介いたします。基本的には同様の内容です。あわせてお読みいただければと存じます。

≪研究の要旨≫

研究の目的は次のようになっています:ミトコンドリアのアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)が不活性化する変異は非常に多く存在します。最も一般的な変異型であるALDH2*2は、東アジア人の40%~50%に存在し、アルコール摂取後にアセトアルデヒドの蓄積、顔面紅潮、頻脈を引き起こします。アルコール摂取とALDH2遺伝子型が精液検査所見に及ぼす関係については、まだ不明ですので、この研究で検討しました。
研究の対象と方法は以下のようになります。東アジア系の男性を対象に、ALDH2遺伝子型、アルコール摂取量、精液検査所見との関連を明らかにするために横断研究を実施しました。ボランティアはアンケートに回答し、解析のために精液サンプルを提出しました。参加者はALDH2の遺伝子型(ALDH2*1/*1、ALDH2*1/*2、ALDH2*2/*2)を決定するために遺伝子配列を決定しました。また、精子におけるALDH2のタンパク質発現を検討するために精子に対して免疫組織化学染色が施行されました。
結果は以下のようになります。参加した112人のうち45人(40.2%)がALDH2*2キャリアでした(つまりALDH2活性が低下)。ALDH2*2キャリアとそうでないものを比較すると、アルコール摂取は、精子運動率(中央値20%[四分位範囲11%-42%]対43%[IQR31%-57%]、p=0.005)および精子前進運動率(19%[IQR11%-37%]対36%[IQR25%-53%]、p=0.008)について有意差を認め、ALDH2*2キャリアで低値でした。アルコール摂取者では、ALDH2*2キャリアは精子運動率(20% [IQR 11%--42%] vs 41% [IQR 19%-57%], p=0.02. 02)、精子前進運動率(19%[IQR 11%-37%] vs 37%[IQR17%-50%]、p=0.02)、総運動精子数(2800万[M、IQR 9-79M] vs 71M[IQR23-150M]、p=0.05)が、ALDH2*1/*1個体と比べ、有意に低下していました。次に、ヒト精子におけるALDH2の発現は、ALDH2*2キャリアにおいて有意に低くなっていました(ALDH2*1/*1 vs ALDH2*1/*2, p=0.01; ALDH2*1/*1 vs ALDH2*2/*2, p <0.001)。
結論として、ALDH2の遺伝子型を調べることは、禁酒のためのカウンセリングと相まって、男性の精液検査所見を改善する可能性があることが示唆されました。

表. 1杯をこえるアルコールを飲む日が月に2日を超える男性#


精液検査所見
ALDH2*1/*1 Carriers ALDH2*2 Carriers P値
症例数 43 20  
精液pH
中央値pH (IQR)
7.8 (7.8-8.0) 8.0 (7.8-8.0) 0.02
精液量
中央値mL (IQR)
3.0 (2.0-4.0) 2.4 (1.5-2.8) 0.02
精子濃度
中央値x10^6 /mL (IQR)
60 (27-116) 53 (29ー86) 0.45
総精子数
中央値x10^6 (IQR)
195 (92-357) 122 (56-214) 0.08
精子正常形態率
中央値% (IQR)
10 (5-16) 9 (7-14) 0.63
精子運動率
中央値% (IQR)
41 (19e57) 20 (11e42) 0.02
前進運動率
中央値% (IQR)
37 (17-50) 19 (11-37) 0.02
総運動精子数
中央値x10^6 (IQR)
71 (23-150) 28 (9-79) 0.05

#アルコール摂取がこの量より少ない場合は、差はありませんでした。
IQR, interquartile range

ALDH2*2キャリアで、1日に1杯を超えるアルコール摂取が月に2日を超える場合と、それ以下の場合の比較##


精液検査所見
1日に1杯を超えるアルコール摂取が
月に2日以下
1日に1杯を超えるアルコール摂取が
月に2日を超える
P値
症例数 25 20  
精液pH
中央値pH (IQR)
7.8 (7.8-8.0) 8.0 (7.8-8.0) 0.06
精液量
中央値mL (IQR)
2.2 (1.7-3.5) 2.4 (1.5-2.8) 0.64
精子濃度
中央値x10^6/mL (IQR)
58 (37-107) 53 (29-86) 0.66
総精子数
中央値x10^6 (IQR)
147 (75-252) 122 (56-214) 0.46
精子正常形態率
中央値% (IQR)
9 (6-15)) 9 (7-14) 0.40
精子運動率
中央値% (IQR)
43 (31-57) 20 (11-42) 0.005
前進運動率
中央値% (IQR)
36 (25-53) 19 (11-37) 0.008
総運動精子数
中央値x10^6 (IQR)
59 (34-112) 28 (9-79) 0.07

##ALDH2*1では差がありませんでした。

≪筆者の意見≫

学会発表の時と微妙に結果が違いますが、概ね同じと考えて良いと思います。
アンケートで1日2杯のアルコール飲料を飲む日が月に2回以上あると、精子運動率が有意に低下していましたが、それはALDH2活性が低下する遺伝子型(ALDH2*2)を持っている男性に限った場合のみでした。ALDH2タンパクの発現を精子の免疫組織染色を用いて検討しているのですが、きれいにミトコンドリア鞘が染まっていたのと、染まり具合がALDH2の遺伝子型にきれいに相関しているのが印象的です。また、これはアンケートで過去1ヶ月間のアルコールの摂取状況を回答してもらっているのですが、やはり妊活に際しては、アルコールに弱い方、強くない方はなるべくアルコールを控えた方がよさそうです。飲む場合は精液所見が1ヶ月程度悪化する可能性が高いことを承知で、女性パートナーの方とよく相談してから(または顔を思い浮かべながら)飲んでください。
妊活中でなければもちろん"適量"の範囲(※)でお酒をお楽しみください。

※「節度ある適度な飲酒」としては、1日平均純アルコールで約20g程度
ビール(中瓶1本500ml)、清酒(1合180ml)、ウイスキー・ブランデー(ダブル60ml)
(https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b5.html)

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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泌尿器科専門医・指導医、生殖医療専門医の小宮顕部長が担当します。
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