胚の再凍結はダメージがある?(メタアナリシス2023)
着床前診断が普及し、受精卵の再凍結症例が増加する傾向にあります。胚の再凍結は成績に影響を与えないのでしょうか。凍結が1回のみの場合と複数回行った場合の生殖医療成績を比較・検討したメタアナリシスをご紹介いたします。
≪ポイント≫
再凍結を行うと、胚生存率が低下し、体外受精の成功率が低下する可能性が示唆されましたが、妊娠継続できれば周産期予後には影響を与えなさそうです。着床前診断などの兼ね合いで再凍結などの症例が出てくる可能性がありますが、再凍結のデメリットもふまえて治療選択を検討していく必要がありそうです。
≪論文紹介≫
Xiangfei Wang, et al. Fertil Steril. 2023. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.03.001.
PubMed、Embase、Cochrane Library、Scopusを2022年10月10日まで検索しました。胚凍結を繰り返した場合と1回のみの場合の胚の転帰と生殖医療成績しました。胚生存率、生殖医療成績(臨床妊娠率、着床率、流産率、生児獲得率など)、周産期結果(低出生体重児率、早産率など)を評価しました。
結果:
メタアナリシスの対象となったのは14研究で、合計4,525サイクルの胚移植(1回のみ凍結3,270周期(対照群)、再凍結1,255周期(実験群))を比較しました。
緩慢凍結では再凍結保存した胚では、胚生存率(OR, 0.51; 95% CI, 0.27-0.96; P = 0.04) と臨床妊娠率(OR, 0.47; 95% CI, 0.23-0.96; P = 0.04)が低下していました。Re-vitrificationを行った胚の生児獲得率も低下していました(OR, 0.60; 95% CI, 0.38-0.94; P = 0.02)。再凍結は単独凍結と比較して、生児獲得率の低下(OR, 0.67; 95% CI, 0.50-0.90; P = 0.007)、流産率の上昇(OR, 1.52; 95% CI, 1.16-1.98; P = 0.003) を認めました。新生児結果には差を認めませんでした。胚盤胞凍結に限っても着床率(OR, 0.59; 95% CI, 0.39-0.89; P = 0.01) と生児獲得率(OR, 0.60; 95% CI, 0.37-0.96; P = 0.03 )は再凍結群が低下しました。
≪私見≫
比較的新しい論文でも再凍結の是非に関しては意見がわかれています。今回のメタアナリシスでは緩慢凍結をおこなった論文が14本中5本含まれていますので、もう少しvitrificationのみの論文が出てくると一貫性がある結果になってくる可能性もあります。今後も注視していきたいと思います。
影響がない派
Cai B, et al. Human Reproduction 2020
Mizobe Y, et al. Reprod Med Biol 2021
Muka. Human Reproduction 2017.
再凍結が悪影響を及ぼす派
Wang M, et al. Reprod Biomed Online 2021
Oraiopoulou. Human Reproduction 2022.
Koch J, et al. Fertil Steril 2011
文責:川井清考(院長)
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